キング・コング

2005/12/17 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ3)
1933年製作のカルトムービーを最新技術でリメイク。
涙なくしては観られない傑作!by K. Hattori

 1933年に製作された怪獣映画の古典『キング・コング』のリメイクだ。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』のオスカー監督ピーター・ジャクソン。『キング・コング』は1976年にもジョン・ギラーミン監督が手がけているが、それは物語の舞台を現代(もちろん1970年代)に移していた。しかし今回のジャクソン版は、オリジナル版と同じ1930年代を舞台にした正真正銘の再映画化となっている。映画撮影隊が地図にない南海の孤島で巨大なゴリラを捕らえ、ニューヨークで見世物にしようとするが逃げ出して……というストーリーはオリジナル版とまったく同じ。しかしオリジナル版は上映時間が100分なのに対して、今回の映画は188分になっている。いったいどこでそんなに尺が増えたのか?

 じつは3時間強の上映時間のうち、島にたどり着くまでに1時間かけている。オリジナル版を観ている人間にはこれが長く感じるのだが、じつは現代の観客にはこの長さが必要なのだ。オリジナル版が公開されたときには説明不要だったことだが、現代の観客には1930年代という時代背景がまずわからない。今回の映画はその点を注意深く、丁寧に説明していく。その時代は、1929年の世界恐慌からまだ数年しかたっていない。街に流れるアル・ジョルスンの能天気な歌声と裏腹に、人々は日々の生活さえままならない。不況の中で劇場に通う客足も遠のき、相次ぐ劇場封鎖で喜劇女優のアン・ダロウは職を失うのだ。

 映画はクライマックスになって、ネオンが輝くニューヨークのきらびやかなショービジネスの世界や、雲を突くようにそびえる摩天楼群を描くことになる。しかし映画の最初に登場するのは、そうしたきらびやかさからも、豊かさからも見放された普通の庶民の暮らしだ。アメリカ社会が抱える明暗のコントラストがここにはある。なお映画の冒頭で流れるアル・ジョルスンの曲は「I'm Sitting on Top of the World(僕は世界の頂上に座ってる)」で、映画の最後にはコングとアンが当時世界一の高さだったエンパイアステートピルの頂上に登るのだ。

 1933年のオリジナル版に対するリスペクトは、オリジナル版からの巧みな引用という形で現れている。タイトルデザインの踏襲に始まり、劇中劇とい形でオリジナルを引用したり、恐竜とコングの戦いもオチはオリジナル版と同じで、オリジナル版の冒頭を飾る外国のことわざをクライマックス直前でデナムが引用したりする。僕が思わず笑ってしまったのは、女優探しに奔走するデナムが次々に女優の名をリストアップする中で、「フェイ・レイはどうだ?」「彼女はRKOで新作の撮影中です」「そうか。監督はクーパーだったな」という会話があること。言うまでもなくフェイ・レイはオリジナル版『キング・コング』の主演女優で、RKOは製作会社、クーパーはその監督です。

(原題:King Kong)

12月17日公開 日劇1、日劇2ほか全国東宝洋画系
配給:UIP
2005年|3時間8分|ニュージーランド、アメリカ|カラー|シネマスコープ|サウンド
関連ホームページ:http://www.kk-movie.jp/
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