ニュー・ワールド

2006/04/06 松竹試写室
テレンス・マリック監督による実写版『ポカホンタス』。
異文化の接触が「新世界」を生み出す。by K. Hattori

 ディズニーアニメにもなった、アメリカ先住民の少女ポカホンタスと探検家ジョン・スミスのロマンス。アメリカ建国の神話として今でも親しまれている実話を、『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック監督が映画化したアドベンチャー・ロマン大作だ。ジョン・スミスを演じるのはコリン・ファレル。ポカホンタスを演じるのは新人のクオリアンカ・キルヒャー。ペルーのインディオの血を引く15歳の少女は、褐色のナタリー・ポートマンとも表現すべき美形。あどけない少女が苦しい恋愛を経て大人の女性に変貌していく様子を、説得力のある存在感でスクリーンに表現している。ポカホンタスの夫ジョン・ロルフ役はクリスチャン・ベール。物語の多くは、この3人のモノローグで構成されている。

 ポカホンタスもジョン・スミスも実在の人物だが、彼らの実像には不明な点も多く、歴史家たちの評価もまちまちだ。なにしろ資料の多くはジョン・スミス本人が書いた自伝で、その内容にはあまりにも誇張が多いように思われるため、ポカホンタスのエピソードもどこまで本当かわからない。結局彼らはあくまでも「建国神話」の中の人物であり、この映画もそれを十分に承知して、神話をあくまでも神々しく、美しく描くことに注力している。描写はリアリズムなのだが、ポカホンタス神話の骨子は曲げず、主要なエピソードは印象深い名場面として映像化される。例えばポカホンタスが処刑されそうなスミスを助ける場面。餓死寸前のジェームズ砦に、ポカホンタスたちが食料を届ける場面。アメリカの王女としてポカホンタスが英国王に謁見する場面。そしてジョン・スミスとポカホンタスの再会などだ。

 タイトルの『ニュー・ワールド』は当然「新世界=アメリカ」を連想させるのだが、そもそも現代において、ヨーロッパ中心の史観でアメリカを「新世界」などと呼ぶのは誤りなのだ。ヨーロッパ人はアメリカ大陸を、自分たちに与えられた新しい「約束の地」だと勝手に決めた。そこに先住民がいるにもかかわらず、勝手に入植して土地を収奪し、先住民が抵抗すれば武力で蹴散らした。(これはエジプトを脱出したイスラエルの民が「約束の地」であるカナンで行ったことでもあるのだけれど……。)アメリカを「新世界」と呼ぶことは、ヨーロッパ人によるアメリカ侵略の正当化みたいなものだ。

 そこでこの映画では、「新世界」の意味が大胆に相対化されている。アメリカはヨーロッパ人にとって「新世界」だが、ヨーロッパ人の持ち込んだ文明は、先住民たちにとっての「新世界」となった。人間は異質な何か、自分が知らなかった未知なるものに出会ったとき、そこに「新世界」を見る。映画の冒頭でヨーロッパ人たちと先住民は初めて出会い、互いに未知なる者同士が恐怖と好奇心の入り交じった接触を持つ。この接触がヨーロッパ人だけでなく、先住民にとっても「新世界」の幕開けであったことを示す場面だ。

(原題:The New World)

4月22日公開予定 サロンパスループル丸の内ほか全国松竹東急系
配給・宣伝:松竹 宣伝:楽舎、メゾン
2005年|2時間16分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://www.thenewworld.jp/
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