猫目小僧

2006/05/08 松竹試写室
楳図かずおの人気漫画を異能の監督井口昇が映画化。
肉玉になった人間はまるで……。by K. Hattori

 原作「猫目小僧」は、かつてテレビアニメにもなった楳図かずおの代表作のひとつ。それを『クルシメさん』や『恋する幼虫』の井口昇監督が実写映画化した。井口監督はこれ以前にも『楳図かずお恐怖劇場/まだらの少女』を映画化していて、これが楳図作品の映画化としては2本目となる。この作品の場合、主人公の猫目小僧を実写でどう描くかが大きな障害になりそうだが、今回の映画ではそのまんま特殊メイクで猫目小僧を作ってしまった。しかしこの特殊メイクは、ほとんどぬいぐるみに近い状態。決してリアリズムを指向していないのが、チープでかえって面白いと思う。

 父の仕事の都合で、東北の小さな村に引っ越すことになった藤崎家の一家3人。顔にあざのある長女まゆかは、それが原因で内気な性格になり、転校した学校でも早速いじめられることになる。喘息で学校を長期欠席している弟の浩は、新しい家にいたずら好きの妖怪が出入りしていることに気が付き友だちになってしまう。それは大きな猫の目を持つ少年、猫目小僧。奇妙なことにその唾の力で、浩の喘息は治ってしまった。猫目小僧を不気味に思っていたまゆかも、猫目小僧に顔のあざを治してもらって大喜び。しかし同じ頃、村の廃屋に封印されていた妖怪ギョロリが解き放たれ、村人たちが次々に肉玉に変身し始めた。村人たちは猫目小僧がギョロリだと考えて捕え、さんざん打ち据えて瓶の中に封印するのだが……。

 まあ作りはチープだし、物語も予定調和ではあるのだけれど、楳図漫画にある「異形者の怨念と悲しみ」というモチーフは色濃く反映されている。単に安っぽくてバカバカしいとばかりも言っていられない、独特の迫力があるのだ。時々折り込まれているC調(死語!)のギャグが、物語世界に現実世界とは違う別種の世界観を与えている。女子校のいじめっ子がヒロインに突然食パンを投げつけるという、映画を観ているこちらも戸惑うような意味不明のエピソード。事件を生み出す原因と、そこから生じる何らかの感情的な葛藤と、次に起きる突発的な行動の動機付け。こうした因果律が実際の行動に移る部分で破綻しているのだ「食パン攻撃」。一度これを受け入れてしまった観客は、その後のギョロリの恨みつらみに、よほど行動の合理性を認めるだろう。

 監督の井口昇は知る人ぞ知るスカトロAVの巨匠。美少女にウンコを食わせることに法悦するという御仁である。この映画でも人間が変身した「肉玉」の描写に、その趣味の一端がうかがえる。劇中の肉玉は「肉の固まり」というより、明らかにウンコである。肉玉を目撃した人間たちの「クサイ!」という反応もその印象を強化する。肉玉が若い女をつかまえて、その口の中に身体の一部を強引に押し込むと、それはむき出しの肉片が口から体内に入っていくというより、ウンコを食わされているような状態に見えてしまうのだ。まあこれはこれで、井口監督の作家性だろう。

6月上旬公開予定 ユーロスペース
配給:アートポート
2005年|1時間44分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーステレオ
関連ホームページ:http://www.nekomekozo.jp/
ホームページ
ホームページへ