トランスアメリカ

2006/05/08 松竹試写室
性転換手術直前の女性(♂)の前に突然息子が現れ……。
ちょっと笑わせ最後はホロリ。by K. Hattori

 肉体的には男性あるいは女性であるとはっきり認知しながら、人格的には別の性に属していると確信している状態。つまり肉体的性と心の性が一致しないことを、性同一性障害と呼ぶ(明鏡国語辞典)。医学的にはGID(Gender Identity Disorder)と呼ばれるが、トランスセクシャル(transsexual)と呼ばれることも多い。

 ロサンゼルスで暮らす中年女性ブリーも、そんなトランスセクシャルの“女性”だ。肉体的にはスタンリーという名の男性として生を受けた彼女だが、今では整形手術とホルモン療法で見た目はほとんど女性そのもの。長年の診療とカウンセリングの末に、いよいよ性器の整形手術を行う許可が出された。これで彼女は合法的に、性別を女性に“戻す”ことが可能になるのだ。手術が待ちきれなくてソワソワする彼女に、ニューヨークから1本の電話がかかってくる。売春と麻薬所持容疑で逮捕された青年が、スタンリーの息子と名乗っているのだ。今では女性として暮らしているブリーは、まだスタンリーだった時代に一度だけ女性と性的な関係を持ったことがある。その時できた子供が17歳の青年になり、父親に会うことを望んでいるのだ。この問題に決着をつけなければ手術の許可を出せないというカウンセラーの言葉に、ブリーは嫌々ながらニューヨークに向かうのだが……。

 主演のフェリシティ・ハフマンは舞台やテレビを中心に活躍している“女優”だそうで、ウィリアム・H・メイシーと結婚してふたりの娘を産んでいる正真正銘の女性。何本もの映画に脇役として出演しているようだが、ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門で主演女優賞を受賞し、アカデミー賞にも主演女優賞でノミネートされた本作によって、彼女は映画界からも引っ張りだこになるに違いない。この映画の中で彼女は最初から最後までほぼ出突っ張りのまま、男性の肉体と女性の精神の間で揺れ動き、突然現れた息子に対して父性とも母性ともつかない気持ちが湧き上がってくることに戸惑うヒロインを熱演している。

 オンボロ自動車でアメリカを東海岸から西海岸まで親子が横断するロードムービーであり、ずっと姿を消していた息子が家族と再会して和解する「放蕩息子の帰還」の物語でもある。映画の中ではブリーが家族と再会し、息子のトビーも父であるブリーと再会する。その先に「和解」があるかどうか、映画ははっきりとは描かない。しかし映画を観ている人はそこに「放蕩息子の帰還」(新約聖書のルカ伝15章)のエピソードを重ね合わせ、そこに訪れるであろう和解と平安を予測することになる。こうした誘導は、ブリーが実家を訪ねたときに妹から「放蕩息子の帰還ね」と言葉をかけられることで明示され、映画の最後にドリー・ピートンが歌うカントリー・ゴスペル調のテーマ曲「Travelin' Thru」が流れることで強化され決定づけられるのだ。

(原題:Transamerica)

7月下旬公開予定 シネスイッチ銀座
配給:松竹 宣伝:ザジフィルムズ
2005年|1時間43分|アメリカ|カラー|ヴィスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.transamerica-movie.jp/
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