ローズ・イン・タイドランド

2006/05/09 映画美学校第1試写室
テリー・ギリアム監督のグロテスクな嗜好が前面に。
残酷で不気味すぎるおとぎ話。by K. Hattori

 ミッチ・カリンの小説「タイドランド」を、鬼才テリー・ギリアムが映画化したダーク・ファンタジー。邦題の『ローズ・イン・タイドランド』は、ヒロインのローズが愛読する「アリス・イン・ワンダーランド(不思議の国のアリス)」を意識したものだと思う。しかしこの「アリス」は明るく楽しいディズニー・アニメのそれではなく、ヤン・シュワンクマイエルのそれだ。ユーモラスでファンタジックだが、同時にシュールでグロテスクでもある。この映画には死のイメージと腐臭が漂っている。

 物語の主人公は10歳の少女ジェライザ=ローズで、映画はすべて彼女の視点から見た一人称世界として描かれている。(見た目視線のカメラで撮られているという意味ではない。念のため。)この世は汚くて残酷で危険に満ちている。しかし世の10歳の子供の多くは、そんな危険をまったく意識することなく、自分中心の世界の中で生きているはずだ。子供の世界は、いつだってその本人を中心に回っている。そして子供の自由奔放なイマジネーションのままに、その中心軸をあちこちに移していく。首尾一貫した世界観や客観性はそこにない。世界は支離滅裂だ。でもそれで誰が困るというのか。子供はいつだって、世界の王としてわがまま勝手に振る舞うものなのだ。

 社会からドロップアウトした薬中の両親に育てられ、学校にも通うことなく家の中で父母の世話をしていたジェライザ=ローズ。彼女の友だちは、壊れたバービー人形の頭が4つだけ。それでも想像力豊かなローズは、ちっとも寂しさを感じたことはない。狭い部屋の中にいたとしても、彼女は無限の想像力でどこにでも出かけることができるからだ。薬物ショックで母親が急死し、父と娘はふたりきりで旅に出る。目指すは父が少年時代を過ごした家。祖母は既になくなり、廃屋になりかけている荒野の真っ只中の一軒家で、ローズと父は暮らし始める。だが薬中の父親は娘をほったらかしにして、時折「バケーション」と称する薬物トリップの旅へと出かけてしまう。その間、ローズは家の中や家の周囲を冒険して回るのだが……。

 映画には主人公ローズの父親役として、ジェフ・ブリッジスが登場する。母親役として、ジェニファー・ティリーが登場する。しかし映画のほぼすべてのシーンに出演しているのは、カナダの子役女優ジョデル・フェルランドだ。ローズ役のこの少女こそが、この映画の中心であると同時にすべてであるといっていいだろう。その演技力には驚愕するしかない。天才子役の出現である!

 現実と小さな接点を持ちつつ、少女の夢幻世界が現実から遠く離れていくスリル。少女の世界が現実との接点を失ってしまえば、それは彼女が「狂気の世界」に旅立ったことを意味する。しかしこの物語の中で、少女はギリギリ現実との接点を保ち続けるのだ。だが最後の最後に起きたことは、はたして現実なのか、それとも幻想なのか……。

(原題:Tideland)

7月公開予定 恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館
配給・宣伝:東北新社 宣伝:メゾン
2005年|1時間57分|イギリス、カナダ|カラー|シネマスコープ|SRD
関連ホームページ:http://www.rosein.jp/
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