ウルトラヴァイオレット

2006/06/09 SPE試写室
歌舞伎にも似たアクションシーンの様式美は絶品。
しかし話はよくワカランぞ。by K. Hattori

 『リベリオン』のカート・ウィマー監督が、『バイオハザード』シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチを主演に招いて作ったSFアクション映画。新種の細菌によって、人類が感染者と非感染者に二分された未来。細菌に感染した人間は短命になると同時に、通常の人間以上の頭脳と身体能力を持つ超人間になる。非感染者たちは、超人間化した感染者を「ファージ」と呼んで恐れ、彼らを根絶やしにしようとしていた。ファージたちは自分たちの生存を賭けて、人間たちに反逆する。そんな中、ファージの女性戦士ウルトラヴァイオレットは、人間が開発したファージ絶滅兵器を盗み出すことに成功。だがその正体は、まだ幼い人間の男の子だった。彼女は兵器の「破壊」を拒み、人間兵器である男の子の手を引いてグループを脱出。彼女はファージからも人間からも追われる立場になった……。

 物語のベースになっているのは、1980年にジョン・カサヴェテスが監督した映画『グロリア』。タフな女が少年の手を引いて、自分が所属していた組織や公権力の追跡から逃げるという展開は確かに同じだ。しかし『グロリア』ではヒロインが中年女性(オリジナル版ではジーナ・ローランズで、1999年のリメイク版ではシャロン・ストーン)になっていたのに対し、この映画ではまだ若いミラ・ジョヴォヴィッチ。(とは言え彼女も30歳か……。)『グロリア』ではヒロインがプロの殺し屋ではなく、マフィアの情婦という設定だった。度胸はあるけれど、素人という設定だ。それが今回はプロの女戦士になっている。

 『グロリア』を男女逆転させたのがリュック・ベッソンの『レオン』で、そこでは男版グロリアであるレオンがプロの殺し屋になっていた。『ウルトラヴァイオレット』は『グロリア』を下敷きにしたというより、考え方としては『レオン』を再度男女逆転させた設定に近いのではなかろうか。(映画にはぜんぜん関係ないけど、ミラ・ジョヴォヴィッチは元リュック・ベッソン夫人。)

 物語は単純なのだが、それが面白いとは思えなかった。ストーリーも人物設定も図式的すぎて、気の利いたひねりもオチも皆無なのだ。世界観も『X−メン』や『イーオン・フラックス』に似ていて新鮮味がない。しかしそれでも、この映画には見どころが多い。アクションシーンは迫力満点で、特にリアリティを無視して様式化された立ち回りは歌舞伎のようだ。ヒロインの衣装や髪の色が次々変化するのが、いかなるテクノロジーによるものなのか、そこに物語の上でどんな必要性や必然性があるのかはまったくわからない。しかしこれは舞台劇における衣装の早変わりのようなものだと解釈すれば、こうしたことにはまったく気にならなくなる。倒した敵がぐるりと輪を描いて倒れるとか、暗闇の中で剣が炎を吹き上げるのもOK! 群がる敵を倒したヒロインが決めポーズをとると、上から盛大に紙吹雪が舞うシーンにはしびれた。

(原題:Ultraviolet)

6月24日公開予定 渋谷東急ほか全国松竹東急系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2006年|1時間27分|アメリカ|カラー|ビスタ|SDDS、SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/ultraviolet/
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