日本では外国映画を公開する際、原題からはかけ離れた日本語タイトルを付けることがある。原題の意味が通じにくいため、日本語タイトルに工夫が必要なことも多い。直訳やそのままカタカナにしたのでは、タイトルとしてインパクトが弱いと判断されることもあるのだろう。だが作品によっては、作品の方向性さえねじ曲げてしまうような、かなり大胆な邦題が付けられることもある。この『地獄の異変』も、そんな日本語タイトルのひとつと言えるかもしれない。
原題は『The Cave』で「洞窟」という意味だ。映画は洞窟内の湖を探検するケイブダイビングがモチーフになっているのだが、それだけではアドベンチャー映画として弱いと思われたのか、そこに未知のモンスターが現れて登場人物たちを襲うという話になっている。探検隊を未知の生物が襲うのは、昔から秘境探検映画の定番だ。この映画もその定番の設定に従っているだけのように思える。だが日本語タイトルは、このモンスターの側にスポットを当てている。ケイブダイビングという危険なスポーツ(?)を描くアドベンチャー映画から、不気味なクリーチャーが人間を襲うモンスター映画に早変わりだ。
もっともこうしたコンセプトの変更は、元の映画にもあったもののようだ。アメリカでの映画公開の際、洞窟に差し込む光をキービジュアルにしたこの映画だが(サントラCDのジャケットはこのデザイン)、発売されたDVDのパッケージは、水面に浮かぶダイバーたちを水中の巨大生物が一呑みにしようとしている『ジョーズ』ばりのビジュアルに変わっている(日本の宣伝デザインも同じ)。う〜ん、これではモロにB級の巨大生物パニック映画だ。しかもひどいことに、映画の中にはこんな巨大生物は出てこないぞ!
僕自身はこの映画を、ケイブダイビングを本格的に取り上げたスリラー・アドベンチャー映画として楽しんだ。モンスター映画としてはそれほど新鮮味を感じないし、そもそも設定が無茶だと思うけれど、ここに描かれているケイブダイビングの映像は本物の迫力がある。プレス資料の言葉をそのまま鵜呑みにするならば、この映画における水中撮影班の稼働時間は合計3,500時間以上、訓練と撮影テストを含めると約4,000時間を費やしているという。ほとんど人が入り込まない水中の湖や川、水路などの映像は神秘的で、それを大きな画面で観られるだけでもかなり大変なことだと思う。地底世界は、まるで不思議の国だ。
地底の寄生虫に蝕まれた人間が、徐々に変異して超能力を身につけていくという描写は面白い。ただしこうした変異がどの程度人間の精神活動に影響を与えるのかがわかりにくいため、寄生虫に蝕まれた兄と、兄の感染を知った弟の葛藤がドラマとして盛り上がらない。精神までが完全に蝕まれる前に、メンバーが脱出できるか否かというサスペンスがあると、より面白くなったのかもしれない。
(原題:The Cave)
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