アントブリー

2006/10/04 ワーナー試写室
いじめられっこが腹いせにアリをいじめたら自分もアリに。
『バグズライフ』の二番煎じの感が……。by K. Hattori

 近所の悪ガキにいじめられてばかりのルーカスは、腹だちまぎれに庭のアリの巣にいたずらして鬱憤を晴らす日々。だがこれにはアリたちがたまらない。アリの世界の魔法使いゾックは、魔法の薬を調合してルーカスに復讐。ルーカスはゾックが作った薬の効果で、身体がアリのサイズに小さくなってしまったのだ。アリの天敵だったルーカスは、世話係アリのホーバの口添えもあって、一転してアリ社会の客分として迎え入れられることになったのだが……。

 人間の少年がアリ社会の一員になるというひねりはあるもの、この映画の見どころはアリの視点で極端に拡大された現実社会の描写と、小さな者たちが力を合わせて巨大な敵に立ち向かうというラストの大活劇にあるのは明らか。これは結局、ピクサーの『バグズライフ』の焼き直しに過ぎないのではないだろうか。物語の後半でいろいろな昆虫たちが力を合わせて敵に向かったり、それまでアリ社会の中でやっかい者扱いされていた主人公が最後にヒーローになったり、話の細かなポイントも似通っている。

 『パグズライフ』がアリや昆虫たちの世界だけで物語を完結させているのに対して、この『アントブリー』は物語の主人公が人間になっている。こうすることで、子供の観客は物語に入りやすくなると考えられているのかもしれない。しかし僕は子供の頃から、「みなしごハッチ」だろうが、「みつばちマーヤ」だろうが、「けろっこデメタン」だろうが、まったく問題なく感情移入しながら見ている子供だったぞ! 人間の感受性というのは、人間以外のものにも自分の感情を投影できるのだ。『アントブリー』において、人間が主人公である必然性を、僕はまったく感じない。もっともこれでアリが主人公になってしまうと、ますます話が『パグズライフ』になってしまうという問題は生じる。『パグズライフ』との差別化のためにも、主人公はやはり人間である必要があるのかも……。

 しかしもし「人間がアリのサイズになる」が物語の中心になるのなら、ストーリー展開はもっと別のやり方があってもよさそうなのものだ。草むらが舞台では、どうしたって物語のルックスが『パグズライフ』に似てしまう。これはアリサイズなった人間が、普段見知っている家の中を大冒険する話にすればよかったのだ。おそらくこの映画の中でもっとも面白いのは、主人公たちが電話をかけるため家に侵入する場面だ。これをもっと拡大して、日常空間をミクロの視点から眺める場面がもっと増え、クライマックスシーンも家の中のいろいろな小道具を使う仕掛けにすると面白かったと思う。

 しかしそうなると、やはり問題が生じる。家の中をミクロの視点で見ていくという映画には、既に『トイ・ストーリー』という前例があることだ。これではピクサーアニメを二重にマネたことになってしまう。ピクサーアニメの呪縛は大きい。後発のCGアニメ会社には同情してしまう。

(原題:The Ant bully)

10月7日公開予定 全国ワーナーマイカル独占ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2006年|1時間29分|アメリカ|カラー|1.85:1|SDDS、Dolby Digital、DTS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/antbully/
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