消えた天使

2007/06/12 メディアボックス試写室
アンドリュー・ラウ監督のハリウッド進出第一弾。
その犯罪は監察官の妄想なのか? by K. Hattori

 性犯罪は更生がきわめて難しい犯罪と言われ、犯人が逮捕され刑務所に収容されたとしても、出所後の再犯率が他の犯罪に比べると高いとされている。そのため性犯罪者の再犯から一般市民を守るために、刑務所を出た犯人の情報を地域に通知したり、出所後の生活状況を事細かく監視し続けることが広く行われている。エロル・バベッジは18年間の間、出所した性犯罪者の監視を行っている監察官だ。だが性犯罪者の人権を無視する仕事ぶりは評判が悪く、諸々の圧力もあって彼は退職を余儀なくされる。だがいよいよ退職まで残りわずかとなったとき、バベッジの担当地域で一件の少女誘拐事件が起きる。自分の担当している性犯罪者の中に犯人がいると直感したバベッジは、新人の女性監察官アリソン・ラウリーと共に事件を追っていくことになる。

 監督は『インファナル・アフェア』シリーズのアンドリュー・ラウ。主演はリチャード・ギアとクレア・デインズ。メジャー映画会社の作品ではないが、『インファナル・アフェア』でハリウッドに注目されたラウ監督にとって、本格的なハリウッド進出作となる。脚本は『コモド』や『ハイウェイマン』のクレイグ・ミッチェルとハンス・バウアーのコンビ。性犯罪や連続殺人をめぐるミステリーという定番素材だが、主人公を社会復帰した性犯罪者の監察官にしているところがユニーク。ミステリー映画として、それほど優れたストーリーでもなければ脚本でもないと思うのだが、トリッキーな演出と俳優の演技に助けられて、それなりに見応えのある作品に仕上がっていると思う。

 この映画に登場する性犯罪者は、ノーマン・ベイツのような二重人格者でも、バッファロービルのような引きこもりの変態でも、レクター博士のような超人でもない。見た目はまったく普通の市民でしかない人が、じつは札付きの性犯罪者だという恐ろしさ。劇中に登場するカップル殺人鬼のモデルは、実在した殺人カップルのイアン・ブレイディとマイラ・ヒンドレーだろうか。この映画の薄気味悪さは、ここに登場する犯罪が、映画的な脚色をまったく行っていない実話をモデルにしているところにある。いやむしろ、この映画よりも実際の犯罪のほうがよほどひどいのだ。性犯罪者が被害者に行う凄惨な拷問を、商業映画でそのままありのまま再現することなどできっこないもんね。

 さほど入り組んでいるとも思えないストーリーだが、フラッシュバックやフラッシュフォワードを多用したトリッキーな映像表現で、単純なストーリーをさも複雑怪奇な事件のように見せている。しかし映画に奥行きと深みを与えているのは、主演ふたりの存在感と演技力だろう。リチャード・ギアは偏執狂的なベテラン監察官役としてはどうかとも思うのだが、クレア・デインズはじつにいい。この女優は、笑顔の裏側に不幸な過去を抱えているような役がうまいのだ。

(原題:The Flock)

8月4日公開予定 スバル座ほか全国東宝洋画系
配給:ムービーアイ 宣伝協力:フリーマン・オフィス
2007年|1時間45分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.kieta.jp/
DVD:消えた天使
関連DVD:アンドリュー・ラウ監督
関連DVD:リチャード・ギア
関連DVD:クレア・デインズ
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