陸に上った軍艦

2007/06/13 松竹試写室
映画監督・新藤兼人の軍隊経験を戦後世代の監督が映画化。
リアルに再現された軍隊の日常。by K. Hattori

 現役の映画監督であり、名脚本家として数多くの作品を手がけてもいる新藤兼人監督が、自身の軍隊経験をもとに書き上げた『陸に上った軍艦』という脚本があった。この映画はその脚本をもとに、ドキュメンタリーとドラマを組み合わせて立体的に描き出した旧日本軍の実像だ。新藤監督は終戦間近の1944年、32歳で海軍に招集されている。同期の兵たち100人のうち、なんと94名が戦死したという。戦地で華々しく散ったわけではない。輸送船で移動中に、米軍に攻撃されて海に沈んだのだ。新藤監督が配属されたのは、兵庫県宝塚市にあった海軍航空隊。宝塚に海はないが、少女歌劇の施設を接収した海軍の施設内部では、海の上と同じ厳しい訓練と規律が守られていた。それは「陸に上った軍艦」なのだ。

 監督は新藤監督の下で助監督を務めていた山本保博で、本作が監督デビュー作。シナリオ『陸に上った軍艦』を書いた新藤兼人は原作者としてクレジットされているが、映画はそのシナリオに沿って映像化されているわけではない。この映画はドキュメンタリーなのだ。新藤兼人監督が自分自身の戦争体験、軍隊体験を回想しつつ語るインタビューの合間に、その時の様子を再現したドラマが挿入されるという形だ。こうした形式自体は、別に珍しくも何ともない。テレビのドキュメンタリー番組などでも、頻繁に使われている演出手法だ。

 しかしこの映画ではおそらくこの再現ドラマ部分が、原作シナリオ『陸に上った軍艦』の映像化になっているのだろう。つまりインタビューが先にあって、そこから再現ドラマを作ったわけではない。先にドラマ部分のシナリオがあって、その後にインタビューを撮っているのだ。インタビューを撮っている「現在」から「過去」を回想しているのではなく、「過去」に既に書かれているシナリオが、「現在」の著者の記憶を呼び覚まし、語り部としての新藤兼人を後押ししているのだろう。

 『陸に上った軍艦』のオリジナル脚本を読んでいないのだが、たぶんそれは、新藤兼人の個人的な体験を元にした普通のシナリオだったはずだ。内容は十分にリアルなものだろうが、それは中年の下っ端兵士が戦場に行くわけでもなく、国内の基地で上官のリンチや爆弾におびえる地味な映画になって終わりだっただろう。しかし完成した映画はそれをバラバラに解体して、インタビューと結びつける。そうすることで、ドラマは「お芝居」であることをやめて、インタビューに応える新藤兼人本人の生々しい言葉の一部となる。

 もちろんこの映画は、インタビューだけでも弱い。新藤兼人の体験談は、「語り」としてそれほど魅力のあるものではないと思うのだ。そこに特殊な体験があるわけではない。そこに人の耳目を集める吸引力があるとは思えない。しかしそれが、映像を加えることで俄然生き生きとしてくる。映像と語りの融合という、当たり前のこと改めて感じさせる作品だった。

7月28日公開予定 ユーロスペース
配給:パンドラ、シネマ・ディクト 宣伝:マジックアワー
2007年|1時間35分|日本|カラー|アメリカンヴィスタ1:1.85|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.oka-gun.com/
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