前作『ダイ・ハード3』から12年ぶりに作られた、ブルース・ウィリス主演の人気アクション・シリーズ最新作。前作の製作以降、この映画は何度も企画が検討されていたはずだが、撮影にゴーサインが出されることなく今日に至ってしまった。タフな主人公がたったひとりで大がかりな組織的犯罪に立ち向かうという『ダイ・ハード』のコンセプトは、多くの亜流作品を生み出している。本家本元が続編を作る前に、似たアイデアが映画化されてしまうこともあったようだ。しかしそれ以上に企画実現が困難になったのは、2001年の同時多発テロの影響ではないだろうか。
最初に『ダイ・ハード』が作られたのが1988年。パート2は2年後の90年に製作され、そこからさらに5年たった95年にパート3が作られている。続編製作の間隔が開いていくのは、主演のブルース・ウィリスが他ならぬ『ダイ・ハード』シリーズで売れっ子になってしまったからだ。この後、ウィリスは『アルマゲドン』(98)や『シックス・センス』(99)といったヒット作に主演している。本来ならその後、2000年代初頭には『ダイ・ハード』の4作目が作られてもおかしくなかった。ところが2001年9月11日に、アメリカで同時多発テロが勃発。この事件のあおりで、ハリウッドではかなりの数のアクション映画が企画進行をストップさせてしまったはずだ。ひょっとしたら、『ダイ・ハード4』も……。その後の映画界は、9.11テロという「現実」を踏まえながら、その悲劇や悪夢を連想させることなく、その「現実」以上に大がかりで派手な犯罪のアイデアを考えなければならなくなったのだ。
今回の映画はそうした難題を、一応はクリアしていると思う。サイバーテロによる社会混乱というアイデアは、直接的な暴力に訴えた9.11テロや世界各地で頻発する自爆テロ、爆弾テロなどと競合することのないものだ。そこに9.11以後の現実的な危機管理体制をからめるあたりは、脚本を練る側の苦労が見えてくるようで面白い。警察組織の支援を受けられない主人公を、孤立無援のままたったひとり犯人グループと対決させる段取りもよく考えられている。『ダイ・ハード』シリーズの伝統だが、犯人側の目的が思想信条の問題ではなく、金目当てだとしている点も、9.11テロから離れる意味ではよかったと思う。
敵役ガブリエルにもう少しカリスマ性がほしいところではあるが、今回の脚本は敵役のキャラクターを立てるより、主人公マクレーンの前に次々関門を作ることが主眼。そのマクレーンのキャラクターには、演じているブルース・ウィリスのキャリアや私生活が反映している。映画の中でマクレーンは離婚し、娘“ルーシー”との関係がぎくしゃくしているが、ブルース・ウィリスも『ダイ・ハード3』の後でデミ・ムーアと離婚。『ホステージ』でも共演している娘の名前は“ルーマー”です。
(原題:Live Free or Die Hard)