クエンティン・タランティーノ監督の『デス・プルーフ』と共に、本来は『グラインドハウス』というオムニバス映画を構成するはずだったSFアクション・ホラー映画。本編の前にダニー・トレホとチーチ・マリン主演の『マシェテ』というB級アクション映画の予告編が付いていて、これがじつに楽しい。もちろん『マシェテ』なんて映画は存在しないし、これから先に製作される予定もないだろう。これは場末の映画館の雰囲気を再現するためのギミック(仕掛け)なのだ。『デス・プルーフ』や『プラネット・テラー』には他にも、フィルムの傷や飛び、フィルムの退色、カラーと白黒のプリントの混在、フィルムの欠落、古風なスタジオロゴなど、往年の“グラインドハウス”の雰囲気を再現するためのギミックが随所に用意されている。
『プラネット・テラー』は『デス・プルーフ』と内容的には独立した作品だが、同じ固有名詞が出てきたり、一部重なり合う人物が存在するなど、世界観を共有するパラレルワールドのような空間を作っている。1本ずつ独立した作品だが、微妙な接点で『グラインドハウス』というひとつの世界を形成しているわけだ。ただしこれは作り手から観客への目配せみたいなもので、これに気付かなくても映画はそれぞれ十分に楽しめる。
映画の内容はゾンビ映画をベースに、戦う泣き虫ヒロインと孤高のヒーローのロマンスがからむ。何となく『ターミネーター』や『ザ・ロック』と同じニオイもするが、こうしたパクリとも引用ともとれる手法も、いかにもB級アクションだろう。我々の知らないところで、世界の歴史を揺るがす大事件が起きていたという衝撃の事実もまた、B級アクション映画の大風呂敷だ。登場するキャラクターがどれも個性的で、不必要なまでに濃い性格付けがしてあるのが見もの。どれもまるでマンガなのだが、ゾンビが大量発生して大暴れする荒唐無稽な場面設定の中では、このマンガチックな性格付けが生きてくる。バーベキューソースの味付けをめぐる兄弟の確執なんて、じつに泣かせる話じゃないか!
『デス・プルーフ』もそうだが、この『プラネット・テラー』も舞台設定は現代になっている。映画のコンセプトは60年代から70年代のB級映画の再現だが、内容は2007年の映画になっているのだ。映画には携帯電話が出てくるし、9.11テロやビンラディンだって登場する。この映画はまっさらの新品ジーンズに、わざと穴あきのビンテージ加工を施しているようなものなのだ。
ロバート・ロドリゲスには『フロム・ダスク・ティル・ドーン』という豪華キャストのゾンビ映画が存在するし、『デスペラード』のような荒唐無稽ガンアクション映画も作っている。『プラネット・テラー』はそうしたロドリゲス流B級アクションの延長にある作品。やりたいことをとことんやり尽くした感じで、観ていても気持ちがスカッとする。
(原題:Robert Rodriguez's Planet Terror )