TOKKO ―特攻―

2007/08/03 渋谷シネ・ラ・セット
神風特攻隊の元隊員とアメリカ側の生き残りにインタビュー。
特攻隊員たちの生の声が聞ける貴重な映画。by K. Hattori

 日系アメリカ人の映画監督リサ・ヤマモトは、アメリカで生まれ、アメリカで教育を受けてきた。そんな彼女にとって、太平洋戦争時に日本が行った特攻作戦はまるで狂気の沙汰。爆弾を抱えたままアメリカの艦船に体当たり攻撃をする日本のパイロットは、軍国主義にこりかたまり洗脳された狂信者に違いないと考えていた。ところが彼女は、自分が日本に行くたびに何かと世話を焼いてくれた優しい叔父が、戦争中に特攻隊のパイロットとして訓練を受けていたと知って驚いてしまう。優しく思慮深かった叔父の姿と、狂信者の特攻隊パイロットの姿がどうしても重なり合わないのだ。叔父はもう世を去っていたが、彼女はカメラとマイクを持って、日米双方の特攻隊関係者たちの証言を集め始める。

 特攻隊の映画やドキュメンタリーはずいぶん作られている。最近でも『俺は君のためにこそ死ににいく』という特攻隊の映画が作られ、何かと物議を醸したりした。特攻隊を尊い犠牲だったと賞揚するにせよ、犬死にだったと否定するにせよ、そうした評価のほとんどは当事者ではない第三者のものであることがほとんどだ。太平洋戦争が終わって62年がたち、「当事者」との距離はますます遠ざかっている。そんな中で、この映画が徹底的に「当事者」の証言に迫ろうとしているのは貴重だ。

 これは作り手と対象の距離感が、ほどほどに開いているのがよかったのかもしれない。同じことを日本人がやろうとすれば、インタビューに行った途端に「もっと勉強してこい!」と一喝されてしまいそうな気がする。しかしこの映画の監督は、若い日系アメリカ人であり、しかも女性だ。わからないことや腑に落ちないことを、相手の立場も考えずにズケズケと聞いてもへっちゃら。もちろん映画の作り手は、最低限必要な下調べは十分にしている。その上で「当事者」にしかわからない事柄については、正々堂々と知らぬふりで相手に質問を投げかける。事前取材で外堀を全部埋めた後で、本丸に丸腰で乗り込んでいくのだから、相手はこれと真正面から向き合うしかない。

 インタビューされている元特攻隊員たちが自分たちの本音を正直に語れるのは、取材者側に対して「当時の自分たちの立場」だの「当時の日本の情勢」だのを、いちいち説明する必要がないからではないだろうか。こうした周辺状況を説明し始めると、人間の言葉はどんどん自分自身を正当化し、感情や行動を合理化しはじめる。社会の中で期待されている自分自身の姿を無意識に想定し、その期待された像をなぞり始める。でもこの映画には、あまりそうした部分が見られない。登場する元特攻隊員たちの生々しい声は、当時20代の若者だった彼らの「その時」を現代によみがえらせる。

 映画では太平洋戦争の大まかな流れや、神風特攻隊の生い立ちなどもわかりやすく説明されている。これは神風特攻隊を切り口にした太平洋戦争史でもあるのだ。

(原題:Wings of Defeat)

7月21日公開 渋谷シネ・ラ・セット
配給:シネカノン
2007年|1時間29分|アメリカ、日本|カラー
関連ホームページ:http://www.cqn.co.jp/tokko/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:TOKKO ―特攻―
関連DVD:リサ・モリモト監督
関連DVD:特別攻撃隊関連
関連DVD:神風特攻隊関連
関連書籍:特別攻撃隊関連
関連書籍:神風特攻隊関連
ホームページ
ホームページへ