そんな無茶な!

2007/08/03 映画美学校第1試写室
製作費100万円でどれだけ面白い映画が作れるのか?
ドラマありドキュメントありの全4話。by K. Hattori

 『金髪の草原』や『殺し屋1』などの脚本家であり、『東京ゾンビ』で監督にも進出した佐藤佐吉がプロデュースする4話オムニバス映画。1本あたりの製作予算は100万円。その範囲内でプロデューサーの佐藤に、「そんな無茶な!」「本当に撮れるの?」「でも、撮れるんだったら観たい!」と思わせた企画だけにゴーサインが出されたという。

 1本目の映画は、夜な夜な新宿ゴールデン街に出没するという「全裸歌手」のドキュメンタリー『彼女が歌う理由』。監督は『東京ハレンチ天国・さよならのブルース』や『プッシーキャット大作戦』の本田隆一だから、当然これもパロディでありフェイクだろう。取材対象になっている歌手が、出演が内定しているテレビ番組の打ち合わせで突然脱ぎ始めるのにはさほど驚かなかったが、雨のそぼ降る表参道ヒルズの前で突如全裸になるのには驚かされた。彼女の演奏シーンもすごい。フェイクドキュメンタリーとしては出色のでき。

 2本目は『恋する幼虫』や『猫目小僧』などの一般映画から、スカトロやレズもののマニアックなAVまで監督し、さらに役者としても活躍中の奇才・井口昇監督作『おばあちゃんのキス』。公園で知り合った老婆同士がレズるという、井口昇以外には誰も作れないであろう妄想世界。主演のおばあちゃんがチャーミング。超音波でカラスを追い払うという老婆のキャラクターも強烈。ラブシーン(?)も、観ていて悶絶するような濃さ。キスしても音ばかり派手で、実際には触れていない疑似キスなんですが、この疑似キスがまた、映画の全編作り事めいたタッチとぴったりマッチしている。井口ワールド全開!

 3本目は『東京ゾンビ』の原作者・花くまゆうさく本人が、『東京ゾンビ』をリメイクするという企画。佐藤佐吉の長編版に比べると、規模は小さいし、地味でチャチな映画になっている。でもこの安い感じが、むしろ『東京ゾンビ』という作品には似合っているのかもしれない。登場するパソコンが、Macだったのが懐かしい。

 最終第4話の『アブコヤワ』は、映画としてはもっとも詰まらないが、登場する映像の衝撃度は他の3作品をすべて合わせても追いつかないほど大きいという問題作。監督の真利子哲也は、与えられた製作費100万円をすべて年末ジャンボ宝くじの購入資金に充て、宝くじ当選に至る自分の家族のドタバタぶり、特に高額当選が出た場合の周章狼狽ぶりを取材しようと考える。ところが宝くじなんてものは、そうそう簡単に当たらないのだ。結局残ったのは、大当たりを出せなかった失望感と虚脱感、そして残念賞のように手元に残った当選金20数万円。「このままじゃ映画にならない」とプロデューサーに言われた監督は、最後の最後にある思い切った行動に出るのだが……。

 おそらく映画を観ている人の誰も、この結末を予想できないと思う。この場面で、試写室全体が凍り付いた。

9月8日〜28日公開予定 シネマアートン下北沢
配給:エスエスエム
2007年|1時間43分|日本
関連ホームページ:http://www.sonnamuchana.com/
DVD:そんな無茶な!
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