Wiz/Out

2007/08/03 パナソニックデジタルソフトラボ試写室
ある日突然、世界中から人が消えてしまったとしたら……。
アイデアは面白いが言葉数が多すぎる。by K. Hattori

 大学のサークルで山間のキャンプ場を訪れていた紗香たちは、翌朝になって周囲に自分たち以外誰も人がいないことに気付いて愕然とする。キャンプ場の管理人は姿を消し、ふもとの町からも人の姿は消えている。東京に戻った彼らを待っていたのは、無人になった渋谷の街。いったい彼らの知らぬ間に、世界に何が起きたというのか?

 映画は「人が消えた世界をさまよう主人公たち」を描く部分と、「世界からどうやって人が消えたのか」を描く部分が同時進行していく構成。テレビと電話を媒介に、人が次々に消滅していくアイデアは面白い。でもこの方式では、一夜にして世界から人が消えてしまうなんてことはあり得そうにない。1日あれば人は7〜8割消えそうだが、残りの2割ぐらいは案外しぶとく生き残るんじゃないだろうか。

 もっとも映画を観ていても、主人公たちの周囲から人が消えたのか、それとも主人公たちが人のいない世界に送り込まれた(取り込まれた)のかは区別が付かない。人を完全に消すなら、むしろ後者の方が都合がいいのかもしれない。映画の中で「どうやって人が消えたか」を描いている部分は、人が消えた風景を説明するための「過去」ではなく、無人の渋谷をさまよう主人公たちとは別の次元で同時進行している「現在」なのかもしれないのだ。ただしこの説を採る場合は、なぜ主人公たちが別の次元に送り込まれたのかの説明が新たに必要になるのだが……。

 現実の世界から自分以外の人が完全に消えてしまうという映画は、これが初めてではない。牧瀬里穂主演の『ターン』という映画が作られている。そこでも電話は異なる次元をつなぐ重要な小道具になっており、この『Wiz/Out』が『ターン』に大きな影響を受けていることがうかがえる。ただし世界観は『ターン』の方がずっと単純。というより、『Wiz/Out』の世界観はまだまだ未整理なものになっているように思える。この映画の世界は、『漂流教室』や『ドラゴンヘッド』の「廃墟願望」にも通じるものだろう。あるいはもっと幼稚な「終末願望」かもしれない。世界中がすべて滅んで、自分と仲の良い人たちだけが生き延びたらどんなにか楽しいだろう……。そんな幼い願望だ。

 雑踏の中での孤独や、自分を偽る仮面というテーマが悪いとは思わない。ある年代の青少年にとって、これは切実なものだと思う。しかしこの映画では、その描き方が説明ばかりの紙芝居になってしまっている。こういう大きなテーマは、物語やエピソードの中に溶かし込んで消化していかなければならないのに、それをせずにただ絵解きしてしまうのだ。

 サスペンス演出を音楽に頼っているシーンも多く、セリフがBGMにかき消されてしまうところも多い。アイデアには面白い部分もあるし、テーマにも現代の若者たちが抱える切実さが感じられるものの、全体に荒削りで未完成な印象。上映時間も長すぎる。

10月公開予定 渋谷ユーロスペースにてレイト公開
配給:Focus Infinity Production 宣伝プロデューサー:山下幸洋
2007年|2時間|日本|カラー|ステレオ
関連ホームページ:http://www.focus-infinity.com/wizout/
DVD:Wiz/Out
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