メイテにとって週2回の儀式。それは夫の汚れた衣類を洗い、アイロンをかけた後、夫からプレゼントされたゲランの香水を振りかけること。ゲランの香りを放つ衣類は、ひまわり柄のバッグに入れて夫の元に届ける。夫のヴァンサンは、7年の刑を受けて服役中なのだ。夫の収監からほぼ1年。面会日ごとに繰り返されるこの儀式を、メイテは欠かしたことがない。だが夫が不在の生活が、これからも長く続くことによる不安。言葉を交わし、手に触れ、時には看守の目を盗んでキスすることができたとしても、それ以上の肉体的接触を禁じられるもどかしさ。ある面会日、刑務所の前でメイテはひとりの男に声をかけられるのだが……。
屈折した男女の三角関係を描いた映画で、ストーリーといい、雰囲気といい、タッチといい、フランス映画以外には絶対あり得ない作品になっている。良くも悪くもフランス映画。これを「オシャレ」と受け取るか、「退屈」と受け取るか、「辛辣な人間ドラマ」と受け取るか、「陳腐なメロドラマ」と受け取るかを、すべて観客に投げ出してしまっている作品ではないだろうか。普通の映画の場合、観客に対して「こういう風に見てください」という目配せがあるものだ。観客はその目配せを十分に意識しながら、作り手の意図を読み解き、映画そのものを判断していく。ところがこの『誘う女』には、そうした目配せがあまり見られない。
監督・脚本のジャン=パスカル・アトゥは、これが劇場用長編初監督作。実際に服役囚の夫を持つ妻たちに数多くインタビューして、この映画のヒロイン像を作り上げたのだという。物語自体が突飛なくせに、ヒロイン像に確たる実感があるのは綿密な取材の成果だろう。しかしそれに比べると、この映画に登場する男たちのひ弱なこと……。
メイテの夫が取った行動の動機が、僕にはいまひとつよくわからない。しかしこれは何らかの形で妻との関係を作りたいという気持ちが、屈折しながら現れたものなのだろう。しかし映画を観ていても、「なぜ?」という気持ちは収まらない。一方、囚人から話を持ちかけられた若い看守が、この「うまい話」にうかうかと乗ってしまうのは何となくわかる。しかしこの話に乗った看守が、遊びのつもりがいつしかメイテとの関係に本気になっていく……というのはアリガチなパターン。
ヒロインと彼女の家に入り浸っている少年のエピソードなど、脇のエピソードもあるのだが、これが三角関係のドラマ自体とは直接の接点を持たないのは物足りない。話自体は主役3人の内部で完結してしまっているので、こうした脇のエピソードは映画の水増しにしか見えない。
はげしいラブシーンがあるわけでなし、有名スターが登場しているわけでなし、波瀾万丈のストーリーが展開するわけでもない地味な映画。僕には少し退屈な作品だったが、この退屈さもまた「フランス映画なればこそ」なのかもしれない。
(原題:7 ans)
DVD:待つ女
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