FUCK

2007/08/24 映画美学校第1試写室
マスコミではタブーなのになぜかみんな知っているあの言葉。
究極のNGワードの真相に迫る。by K. Hattori

 言論の自由や表現の自由が世界で最も手厚く保護されているアメリカにおいて、公共の場では決して口にしてはならないタブーとされる言葉がある。それが「fuck」だ。語源すら定かではないこの言葉はそれ自体として性行為を意味する古い英語なのだが、やがてはありとあらゆる悪態に使われる言葉となり、さらには言葉を誇大に強調するための形容詞など、本来の意味を大きく越えて使い回される万能の言葉となっている。だがそれでも、この言葉は放送での使用が禁止だし、公共の場で提示することもできない言葉であることに違いはない。これはそんな「fuck」についてのドキュメンタリー映画だが、タイトルも『Fuck』にしたため、映画館では看板を出せず、DVDを発売する際もタイトルをそのまま表記できない事態になっているようだ。

 この映画は「fuck」という言葉の来歴や現状を取材しながら、アメリカのメディア政策など、社会的な領域にも足を踏み入れていく。大勢の人にインタビューして、保守からリベラルまでバランスよく多彩な意見を拾い上げている。でもこの映画は、これから先にどうすればいいのかという意見提言はしていない。それがマイケル・ムーアに代表される、政治扇動型ドキュメンタリーとは違うところだ。映画を観れば、この映画の作り手がリベラルな立場であることはよくわかる。だからといって、この映画はひとつの立場を観客に押しつけない。

 しかしそもそもこの映画は、何らかの政治的扇動とは無縁なのだ。この映画がやろうとしているのは、「fuck」というひとつの言葉を通して、現代のアメリカ社会に切り込んでいくことだ。多様な立場から、多彩な意見が述べられる。それがアメリカ。ある面で一致しているかに見える人々が、じつはまったく正反対の動機からひとつのことで結束していたりもする。それがアメリカ。矛盾や自己欺瞞が混沌とした社会を形成している。それがアメリカ。この映画を観れば、普段は見えないアメリカの正直な素顔が見えてくる。何でもきれいに割り切って、難しい問題もひどく単純化し、一方方向に突っ走っていくのが得意なアメリカが、たったひとつの言葉の前に足を止め、戸惑い、顔色を失い、しどろもどろになってしまう。この言葉の前では、誰も旗幟鮮明になれない。「fuck」という言葉には、それだけのパワーがある。

 言葉の来歴や現状についてのお勉強としてはよくできた映画で、引用されている映画から新しい発見があったりもする。たったひとつの英単語も、深く掘り下げていけばこれだけのことができるというのが、この映画の一番の発見かもしれない。ただしこの映画、結局は「fuck」という言葉を連発することで耳目を集めようとしているような気配がなきにしもあらず。日本で暮らしている限り、これが自分の生活に差し迫った何かを考える材料にはならないという点でもちょっと弱い。

(原題:Fuck)

今秋公開予定 シアターN渋谷
配給:ムヴィオラ
2007年|1時間30分|アメリカ|カラー|ヴィスタサイズ
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:FUCK
DVD (Amazon.com):F**K - A Documentary
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