01年の『少女〜an adolecent』で監督デビューし、昨年は『るにん』『長い散歩』と2本の監督作を取り上げた奥田瑛二の最新作。下関を舞台に、夢を持てないままチンピラ稼業に甘んじている在日青年と、オペラ歌手を夢見る女子高生の恋愛を描く青春ドラマだ。チンピラのチョ・ソンムン(趙聖文)を演じるのは、モデル出身で本作が映画初主演となる佐々木崇雄。女子高生の岩田真理子を演じているのは、監督の次女(母親は安藤和津)であり、やはり映画初主演となる安藤サクラ。
新人を主演させる映画の常だが、若い主役たちの周囲をベテラン俳優たちがぐるりと取り囲む豪華なキャスティング。ピンポイントで出演している作家の島田雅彦や、ジャズ歌手の綾戸智絵、スピリチュアル・カウンセラーの江原啓之なども、映画にいい雰囲気を出している。こうしたプロの俳優ではない演者だけが持つゴツゴツとした存在感が、映画の中で主演ふたりの青臭いニオイを巧みに中和させてしまう。このあたりは結構、適材適所の好キャスティングになっているのだ。
主人公のソンムンは、在日という出自ゆえにさまざまな差別にぶつかり、自分自身の夢を持つことなどとっくの昔に諦めてしまった男だ。もっとも彼がそれまでの人生の中で、いったいどれほどの「差別」にさらされてきたのかはわからない。むしろソンムンはそこそこ知恵が働くために、何かをする前から自分のぶつかる壁が見えてしまったのかもしれない。一所懸命に何かに打ち込んでも、どうせその努力は報われない。ならば最初から努力などせず、自分をありのままに受け入れてくれる世界の中で、言われるがままに流されている方が楽ではないか。
だがソンムンはそう考えながらも、まだ心のどこかで自分の境遇に開き直ってしまうことができないでいる。彼の中にはまだ葛藤があるのだ。完全に開き直って、先輩の田丸(北村一輝)のような生き方を貫くことができない。そんな彼が出会ったのが、自分の夢に向かってまっしぐらに全力疾走している真理子なのだ。
ソンムンが真理子に惹かれる理由は何となくわかるのだが、真理子がなぜソンムンに惹かれたのかはよくわからない。家に不在気味の父親と似たにおいを、ソンムンの中に見出したということだろうか。このあたり、あまり説明すると図式的になって面白くないし、説明不足だと映画のためにとりあえず若い男女がくっついたご都合主義になってしまう。この映画の場合、かなりご都合主義だ。これは物語の他の部分についても言えることで、物語のあっちこっちにあれこれ都合のいい展開が用意されている。
しかしこの映画で、そうしたご都合主義が大きな欠点になっているかというと、特にそういうわけでもないのかもしれない。映画のご都合主義は、主演の佐々木崇雄や安藤サクラの魅力を少しでも減じているだろうか? 僕は必ずしもそうは思わないのだ。
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