カオチョンカイ・キャンプ

高校最後の軍事教練

2007/10/21 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART SCREEN)
タイの男子高校生にとって通過儀礼となっている軍事教練。
5日間のキャンプが少年を大人にする。by K. Hattori

 タイの軍隊は徴兵制をとっており、対象となる成人男子(21歳以上)には2年間の兵役義務が課せられている。しかし兵役対象が軍隊の定員より多いため、現状では対象の中からくじ引きによる抽選で対象者を決めている。当たるか当たらないかは運次第。だがこのくじを堂々と免除される方法がひとつある。それは学生時代に短期の軍事教練に参加することだ。訓練を無事修了した者は軍の予備役に回されて、その後の徴兵は免除されることになっている。くじ運だけで2年も軍隊生活をするより、自分の意志で訓練に参加して、さっさと徴兵を免除された方がよほどいい。そんなわけで、高校生のほとんどがこのキャンプに参加するらしい。しかしこの訓練はお遊びの戦争ごっこではない。タイ王国軍による、れっきとした正規の新兵訓練だ。生半可な気持ちで参加すれば、そこには地獄が待っている……。

 タイの若い俳優を使った、軍事教練をモチーフにした青春ドラマだ。原題でもある「カオチョンカイ」というのは、この映画の舞台になっている訓練キャンプの名前。同じようなキャンプが他にもあるのか、それとも全国からこのキャンプに学生たちが集められるのかは知らないが、映画の中には高校生を満載したバスが連日のようにこのキャンプに到着する光景が描かれている。キャンプを前にした高校生は、不安と緊張で顔面蒼白だ。何しろキャンプ参加前から、周囲にいろいろなウワサをたっぷりと仕込まれている。曰く、訓練地ではパラシュート訓練で小便をちびる奴がいる。曰く、訓練がきつくて死んだ学生の幽霊が出る。こうした話に震え上がっていた青白い顔の高校生たちが、5日間でどれだけたくましく成長していくのかが見どころ。

 訓練は学校単位で受けることになるのだが、この時グループの中に、他のメンバーからあまり好ましく思われていないイケメンの優等生が混じっているのがミソだ。彼は少し前に転校してきたばかりなのに、学年の女の子たちの人気を独り占め。成績がいいから先生たちのウケもいい。これが他のメンバーたちのしゃくに障る。しかも軍事教練に入っても、彼がグループのリーダーに選ばれる始末。ますます気にくわない。こうしてグループ単位で競い合い、時には反目対立する軍事教練の場に、グループ内部での不協和音という要素が付け加えられる。

 この優等生がじつは、頭にカッと血が上ると見境がなくなるという欠点を持っていたとわかるのは、映画も終盤になってから。これをきっかけにして、主人公たちのチームはひとつにまとまっていく。でもできればこうした部分をもっと早く出しておいた方が、観客のウケもよくなり、映画後半のドラマもより盛り上がったのではないだろうか。映画では同級生グループが一丸になるのが、キャンプ終了ギリギリになっている。これをあと1日前倒しして、チーム一丸となった主人公たちがどんな力を発揮するかが見たいのだ。

(英題:Khao Chon Kai)

第20回東京国際映画祭 「アジアの風」上映作品
配給:未定
2006年|1時間34分|タイ|カラー
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=91
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:カオチョンカイ・キャンプ〜高校最後の軍事教練
関連DVD:ウィティット・カムサケーオ監督
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