ストーン・エンジェル

2007/10/24 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART SCREEN)
自由奔放なひとりの女性の人生をエレン・バースティンが熱演。
親と子の葛藤と和解を丁寧に描く。by K. Hattori

 エレン・バースティン扮する女性の一代記だが、ヒロインの若い頃を演じたクリスティン・ホーンの存在感が印象に残る作品になった。IMDbによると、彼女はまだデビューしたばかりの新人女優。カナダ人なので今後ハリウッドに進出してくるかどうかは不明だが、あるいはこの映画がきっかけになってメジャー作出演への道が開けるかもしれない。何しろこの映画の中では、全体の半分ぐらいが彼女の出演シーンになっている。エレン・バースティンはもちろん上手いのだが、この映画に関して言えば、魅力の半分以上はホーンが演じた若い頃のエピソードにあると思う。

 小さな町の名士の家に生まれ、何不自由のないお嬢さんとして暮らしていたヘイガー(クリスティン・ホーン)。父親はいずれ彼女が家業を継ぐものと期待していたが、彼女は父の生き方に反発して家を飛び出し、町外れで小さな牧場を経営するブラム(コール・ハウザー)と駆け落ち同然の結婚をする。だが彼女の父はこれを許さず、彼女を勘当。家を継ぐ息子が病死した後も彼女を許すことなく、自分の死後は遺産のすべてを町に寄贈してしまう。マイペースで貧しい小さな牧場を営む夫との暮らしにうんざりしたヘイガーは、まだ小さな息子を連れて夫と別居することを決意するのだが……。

 製作・監督・脚本のカリ・スコグランドはテレビ映画の仕事が多く、これは彼女にとって数少ない本格的な映画の1本。しかしテレビ作品のいくつかは日本でもDVD発売されているぐらいだから、監督としてもそれなりのキャリアの持ち主と言えるのだ。ただし今回の映画は、脚本が少しわかりにくい部分もある。エレン・バースティンが演じる老いたヘイガーの現在と、過去の回想シーンを交互につないでいくという構成はよくあるものだが、回想している老ヘイガーが、自宅、老人ホーム、思い出の場所、さらには病院へとどんどん移動していく。このため話が現在と過去を行き来していると、今がどこでどうなっているのかとっさに状況を把握できなくなることがある。これは回想シーンの中のヘイガーが中年になり、老ヘイガーと同じくエレン・バースティンが演じ始めるとなおさらだ。

 個々の登場人物の位置づけも未整理なままになっているところがあり、特に老ヘイガーが思い出の廃墟で出会う青年の意味合いがわかりにくい。一応はそこに息子の姿を重ね合わせるという役割があるのだが、物語の中でそれうまく機能していないのではないだろうか。家に伝わる家訓を刻んだピンや水差し、そして題名にもなっている天使の石像といった小道具も、ここ一番というところで劇的効果を生み出すには至っていない気がする。

 悪い映画ではなく、真面目につくったいい映画だとは思うが、こうした映画こそ、大きな仕掛けで観客をあっと驚かせてほしい。そうすれば細かな弱点も気にならなくなると思う。

(原題:The Stone Angel)

第20回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
配給:未定
2007年|1時間45分|カナダ|カラー
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=17
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ストーン・エンジェル
原作:石の天使(マーガレット・ローレンス)
原作洋書:The Stone Angel (Margaret Laurence)
関連DVD:カリ・スコグランド監督
関連DVD:エレン・バースティン
関連DVD:クリスティン・ホーン
関連DVD:コール・ハウザー
関連DVD:シーラ・マッカーシー
関連DVD:ディラン・ベイカー
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