あの空をおぼえてる

2008/02/05 スペースFS汐留
交通事故で娘を失った一家がたどりついた真実とは?
弱い大人と強い子供。冨樫森の世界だ。by K. Hattori

 アメリカの作家ジャネット・リー・ケアリーの同名小説を、舞台を日本に移し替えて映画化した作品。監督は『非・バランス』『ごめん』の冨樫森。豊かな自然と田園風景が広がる田舎町で、小さな写真館を営む深沢家。夫婦と子供ふたりの幸せな一家は、間もなく誕生する新しい家族を迎える喜びに包まれている。ところがある日何の前触れもなく、10歳の長男と6歳の長女がトラックにはねられる。妹は即死。長男は生死の境をさまようが、何とか九死に一生を得た。だが娘の死という大きな悲劇は家族の上に重たくのしかかり、笑顔と笑い声に包まれていた団らんは失われてしまう……。

 家族の事故死が一家の絆をバラバラに分断していくという筋立ては、ロバート・レッドフォードの映画『普通の人々』と同じだ。傷ついた家族を束ねていかなければならないはずの父親がいかにも無力で、残された家族の誰もが、失われた幼い命に対する自責の念から自らの殻に閉じこもる。自分ひとりの世界に閉じこもったところで、そこに癒しがあるわけではない。むしろそれは人を孤立させ、さらに深い悲しみと絶望の中に追い込んでいくだろう。でも人は自分の身に降りかかった大きな不幸を前にして、孤立と悲しみと絶望を求めてしまう。そうでもしなければ、かけがえのないものを失ったという事実と、それでも自分が生き続けていかねばならないという現実の間でバランスが取れないのだ。

 この映画では主演の竹野内豊と水野美紀の影が薄く、あまり存在感を発揮できていない。特に父親役の竹野内豊は薄ぼんやりとした印象で、「7年ぶりの映画主演」といううたい文句が泣いている。もちろんこうなってしまった原因ははっきりしている。それは彼が、演じている役に忠実だからだ。ここで描かれているのは「弱い父親」であり、それは家族が重大な危機を迎えたときに「存在感を発揮できない父親」なのだ。彼は家族全員が打ちのめされているとき、自分ひとりで自分の悲しみを抱え込んで押しつぶされてしまう。彼は危機の中で一家を支え、歯を食いしばって悲しみに堪えるだけの強さを持てないでいる。もちろん彼も普段なら、嬉しいときは晴れやかに笑い、悲しいときはホロリと涙を流す、素直で優しい父親ではあるのだ。しかし降りかかった悲しみのあまりの大きさに、彼の心はポキリと簡単に折れてしまう。

 「家族の死」という深刻なモチーフを扱った映画だが、作品の印象が重くならないのは、子供たちの表情が明るいからだろう。回想シーンや幻想シーンに登場する、死んだ妹・絵里奈を演じている吉田里琴が抜群に良い。笑うときも、泣くときも、感情表現が100%ダイレクトに伝わってくる。エネルギーのかたまりのような絵里奈は、一家の中心にある太陽のような存在なのだ。実質主人公となる兄の英治を演じた広田亮平も悪くないのだが、彼女に比べるとちょっと分が悪くなってしまう。

4月26日公開予定 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2008年|1時間55分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/anosora/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:あの空をおぼえてる
サントラCD:あの空をおぼえてる
主題歌CD:いつか離れる日が来ても(平井堅)
挿入歌CD:月とラクダの夢を見た(中山うり)
原作:あの空をおぼえてる(ジャネット・リー・ケアリー)
原作洋書:Wenny Has Wings (Janet Lee Carey)
関連DVD:冨樫森監督
関連DVD:竹野内豊
関連DVD:水野美紀
関連DVD:平田亮平
関連DVD:吉田里琴
ホームページ
ホームページへ