REC/レック

2008/03/05 スペースFS汐留
深夜の消防隊を取材中のテレビクルーが撮影した恐怖。
最後は思い切りゾッとさせられた。by K. Hattori

 『ネイムレス/無名恐怖』や『ダークネス』『機械じかけの小児病棟』などが日本でも紹介されているスペインのホラー監督、ジャウマ・バラゲロ監督の新作だ。今回は『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト』にも一緒に参加したパコ・プラサ監督との共作。映画全体が「テレビ局の取材クルーが撮影したビデオ素材」という体裁になっているのがミソ。この手法はかつて『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)で一世を風靡したわけだが、ビデオカメラがますます小型で安価になり、プロもアマチュアも同じような機材を使って日常のスナップ映像を撮っている現在、こうした「ビデオ映像」のリアリティはますます高まっていると思う。(今年はまさに素人がホームビデオで撮りました!というコンセプトの『クローバーフィールド/HAKAISHA』もある。)

 物語の舞台はスペインの観光都市バルセロナ。消防隊の24時間密着取材をしていたテレビ局レポーターのアンヘラとカメラマンのパブロは、消防隊が深夜の緊急出動すると知って大喜び。これで面白い素材が撮れるに違いない。行き着いたのは古びたアパートで、住民たちが上の部屋から大きな悲鳴が聞こえたと不安げな表情。警官と一緒に部屋に突入した消防隊は、そこで半狂乱になった住民の老女を見つける。彼女を保護しようと警官が近づいた時、なんと彼女は警官に襲いかかった!

 この映画は最初から最後まで、観客に「カメラの視点」を意識させ続ける。カメラは人間の目以上に克明に物事を見ることが出来る長所もあれば、人間の目には及ばない欠点から多くのものを見逃す短所もある。この映画はそうした長所と短所を巧みにドラマに取り込み、観客の不安を煽ることに成功している。しかし映画のほとんどの場所で使われているのは、カメラが持つ短所だ。カメラはスイッチを入れていないと動かない。カメラの視界は狭い。カメラは素早く動かすと画像がぶれて、何が写っているのか判別が不可能になってしまう。こうしたカメラの欠点が、映画の中に無数の「死角」を作り出す。カメラに写らない、カメラの視界の外にある領域の広大さを、観客は否応なしに思い知らされる。

 映画は最後にこうしたカメラの短所と、カメラならではの長所の双方を観客に突きつけて、そこに出現する恐怖をくっきりと描き出す。真っ暗な部屋に閉じこめられた主人公たちが、暗視モードのビデオカメラでファインダー越しに見たものとは? 背中に冷たい汗が流れ、全身に鳥肌が立つような戦慄と恐怖! はっきり言って、こんなものを見させられるぐらいなら、真っ暗闇で何も見えない方がなんぼかマシである。映画の中で久しぶりにイヤ〜なものを見せられてしまった。しかしこうした生理的嫌悪に似た恐怖を見事に作り出したこの映画のスタッフとキャストには、拍手喝采するしかあるまい。降参です!

(原題:[REC])

6月公開予定 池袋シネマサンシャイン
配給:ブロードメディア・スタジオ
2007年|1時間17分|スペイン|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーデジタル、DTS
関連ホームページ:http://www.recmovie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:REC/レック
関連DVD:ジャウマ・バラゲロ監督
関連DVD:パコ・プラサ監督
関連DVD:マニュエラ・ヴェラスコ
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