Mr. ブルックス

完璧なる殺人者

2008/03/18 京橋テアトル試写室
実業界の名士ブルックス氏の裏の顔。それは殺人鬼。
ケビン・コスナーが殺人鬼を演じる。by K. Hattori

Mr. Brooks [Music from the Motion Picture]  オレゴン州ポートランドで、地元経済界の名士として「今年の顔」にも選ばれたアール・ブルックス。だが彼は大物実業家という顔の裏側に、世間を震撼させる連続殺人犯「指紋の殺人鬼」という顔を隠していた。膨れあがる殺人衝動に負け、数年ぶりに手を血に染めたブルックス。だがことの一部始終を、窓の外から撮影していた男がいたのだ。男はブルックスの会社を訪れると、思っても見ない提案を持ちかける。自分も人を殺してみたいから、次の殺しには自分を同行させろというのだ……。

 映画の中には「連続猟奇殺人もの」とでも言うべきジャンルがすっかり定着し、これまでに何十何百というシリアルキラーがスクリーンに登場しては観客を震え上がらせてきた。だがこの映画の主人公ほど、観客の同情を誘う連続殺人鬼はいなかったのではなかろうか。単に同情される連続殺人鬼なら、これまでにもいたかもしれない。『サイコ』のノーマン・ベイツだって、『ヘンリー/ある連続殺人鬼の記録』のヘンリ・リー・ルーカスだって、観客の同情はひいたかもしれない。でも彼らが観客から「共感」されることはない。しかし本作『Mr. ブルックス/完璧なる殺人者』に登場するブルックスは、観客をたっぷりと共感させてしまうのだ。

 この映画では、ブルックスの犯罪が彼の「心の弱さ」によって引き起こされるものとされている。彼は意志が弱い。彼は「もう殺人はしないぞ!」と何度も決意しながら、結局は自分の欲望に負けて押し流されてしまうのだ。彼の犯罪がいかに完璧でスマートなものであろうと、それが彼の「弱さ」に起因していることは変わらない。彼は自分の弱さを克服したいと願う。アルコール依存症患者の集会に出席して、自らの弱さを(ありのままの形ではないにせよ)告白する彼の姿は哀れみを誘う。

 ブルックスの二面性をマーシャルという別人格で表現しているのが面白いが、こうしたアイデア自体は別に初めてというわけわけではない。この映画でこの二重人格が面白いのは、表の顔であるブルックスをケビン・コスナーが演じ、裏の人格であるマーシャルをウィリアム・ハートが演じていることにある。コスナーよりハートのほうが少し年上で、俳優としての格もちょっと上なのだ。これによって、マーシャルの支配的な性格に説得力が増してくる。

 ブルックスとデミ・ムーア演じる女刑事アトウッドの関係は、ブルックスの一方的な思い込みによる「疑似父娘関係」だと考えるとわかりやすいと思う。父親から独立してどんなに苦しくとも自分の生き方を貫こうとするアトウッドは、大学で問題を起こすと家に逃げ帰り、甘えた声を出して父の後継者に名乗り出る娘ジェインとは正反対。ブルックスにとっては、アトウッドこそが理想の娘なのだ。人の世はどうして思うようにならないのか。その悲しさが、この映画のベースになっている。

(原題:Mr. Brooks)

5月下旬公開予定 Q-AXシネマほか全国ロードショー
配給:プレシディオ 宣伝:アルシネテラン
2007年|2時間|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.mrbrooks.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:Mr. ブルックス/完璧なる殺人鬼
DVD (Amazon.com):Mr. Brooks
DVD (Amazon.com):Mr. Brooks [Blu-ray]
サントラCD:Mr. ブルックス
サントラCD:Mr. Brooks
イメージソング収録CD:ザ・ラナウェイ・ファウンド
イメージソング収録CD:The Runaway Found
関連DVD:ブルース・A・エバンス監督
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