『少林サッカー』『カンフーハッスル』のチャウ・シンチー監督最新作は、宇宙から来た謎の生物と人間の子供の交流を描くSFファンタジー。いわばチャウ・シンチー版の『E.T.』だ。監督作では主演も兼ねるチャウ監督だが、今回は主人公の座を子役に譲り、本人はその父親役で出演。常に主人公として派手なアクションを期待されているジャッキー・チェンなどと違い、チャウ監督はこのあたり自由自在に自分の立ち位置を調節できるのはメリットかも。今年は日本映画『少林少女』のエグゼクティブプロデューサーや、ハリウッド版『ドラゴンボール』のプロデュースといった仕事もあり、チャウ・シンチーの仕事の幅は広がる一方、主演映画が公開される機会は減っていくのかもしれない。
主人公は廃墟のような家に住むチョー貧乏な父と息子。父親ティーは建設現場で働きながら、経済的には無理に無理を重ねて息子ディッキーを私立の名門小学校に入れている。自分がろくな教育を受けられなかったからこそ、子供にだけは十分な教育をという気持ちからだ。そんな父の気持ちを察して、ディッキーはイジメられようが差別されようが学校に通い続ける。薄汚れた格好をしてはいても、いつも笑顔のディッキー。ある日父親のティーが、ゴミ捨て場で緑色のゴムまりを拾ってきた。それは変形して犬のような姿に。ディッキーはそれに「ミラクル7号」という名前を付けるのだが……。
荒唐無稽な設定の物語ではあるが、それをあまり感じさせないのはキャスティングや舞台設定が用意周到だからだろう。例えば主人公ディッキー少年やいじめっ子の男の子をあえて女の子に演じさせているほか、ディッキーを慕う女の子を男性レスラー、いじめっ子の用心棒とも言うべき巨漢の少年を女性に演じさせたりしている。大人が性別さえ違う小学生を演じるのだから当然無理があるが、その無理を強引に突破させることで映画の中に「なんでもあり」という基礎ができあがる。もちろんこうした無理を、ただ無理矢理に押し通しても映画はバラバラになってしまう。これはキャスティングと演出のさじ加減だ。
この映画が観る人の胸を打つのは、はちゃめちゃな設定の下にしっかりと本物の人間が描かれているからだ。例えば主人公ディッキーは、ただの良い子じゃない。親に甘えたり、ワガママを言って困らせたりすることもある、ごく普通の小学生なのだ。ディッキーがおもちゃ屋で父親にロボット犬をせがむシーンは、この映画の中で最初の泣かせどころだ。このシーンの中に、主人公父子の辛い境遇が凝縮されている。ディッキーだって、父にオモチャを買う金がないことはわかっているのだ。でもオモチャは欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。その気持ちを、父親にもわかってほしい。父親だってもちろん、そんな息子の気持ちはわかる。親子の気持ちが固く結び合っているからこそ衝突が起きる。これはそんな場面だろう。
(原題:長江七號 CJ7)
DVD:ミラクル7号
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