映画としてのデキはぜんぜんダメなんだけど、嫌いになれない映画というものがある。それは作り手の一生懸命さが伝わってくる映画だ。作り手は一生懸命なのに、それが思い切り空回りして映画の完成度に貢献していない映画だ。映画ファンはそんな映画に対し、愛情と親しみを込めて「バカ映画」と呼ぶ。本作『レッドライン』も、そんなバカ映画のひとつだ。
天才レーサーと呼ばれた父から才能を引き継いだ天才少女が、法外な掛け金が飛び交う公道レースで大活躍するという話。この天才少女がどういうわけか超セクシーな美女。しかもどういうわけか、本人はレーサーではなく友人と組んだバンドで歌手を目指しているという設定。しかし彼女が歌っているだけでは映画にならないので、当然彼女は本人の意志とは無関係にレースの世界に引きずり込まれる。ついでに本人の意思とは無関係に、レースに参加していたギャングの妻にさせられてしまうのだから驚きだ。下着姿でベッドに横たえられた彼女の姿は、う〜んセクシー!
しかし彼女はたまたま都合良くその場にやってきた凄腕の元兵士に救出され、無骨だけど優しくてたくましい彼とベッドイン。ベッドシーンは20年前の少女漫画のように省略処理され、キスした次の瞬間にはもう朝になっているのが残念。でも彼女がお楽しみをしている最中に、ギャングは彼女の実家を襲って母親を誘拐。大金のかかった次のレースに彼女を無理矢理出場させようとする。レースに出てみると、そこにいたのは愛する父親を事故死に追いやったいわくつきのレーサーだった。ええっ、そんな話、今の今まで聞いてないよ〜!
脚本がそうとうデタラメにできていて、事件の発生は行き当たりばったりだし、キャラクターの掘り下げも皆無。しかしこの映画は、「クルマとセクシーなネェちゃんさえ出てりゃそれでOK!」という、観客を舐めきった思い切りの良さでグイグイと先に進んでいく。ご都合主義のストーリー展開や、ハトロン紙のように薄いキャラクター設定も、スポーツカーの爆音の前にはどうでもよくなってくる。むしろここまで「クルマとオンナ」にしか興味がないとなれば、かえってこのぐらいのペラペラさがちょうどいい。しかしひとつだけ言えるのは、この映画は小さなテレビで見ていたのでは面白くもおかしくもないということ。劇場のスクリーンや50インチ以上の大型モニター、そして耳をつんざくような大音響なしには、この映画はただのチンケな紙芝居になってしまうだろう。
次から次に最新鋭のスーパーカーが登場する割に、個々のクルマに対するこだわりがあまり感じられないのもこの映画の特徴。劇中に次から次に高級スポーツカーを現金買いする映画プロデューサーが登場するが、あれはこの映画の製作者たちの自画像なのかもしれない。劇中に登場するクルマの多くは、監督ら関係者の私物だという。
(原題:Redline)
DVD:レッドライン
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