1975年に初演されてから1990年までロングランされたブロードウェイの大ヒット・ミュージカル「コーラスライン」は、ショーの舞台で特別な脚光を浴びることのないコーラスたちの物語だ。日本でも劇団四季が翻訳上演しているし、1985年には映画化もされているので、それらを観ている人も多いかもしれない。コーラスとはショーの主役であるスターの背後で、スターを盛り立てるために歌い踊るダンサーたちのこと。観客は彼らの名前を知らず、顔だってろくに覚えちゃいない。個別にスポットライトを浴びることのない「その他大勢」がコーラスなのだ。しかしそんな「その他大勢」の一員になるにせよ、ダンサーたちは過酷なオーディションを通過しなければならない。オーディションに落ちた者は、「その他大勢」になることすらできないのだ。
「コーラスライン」は2006年に16年ぶりの再演が始まったのだが、この映画『ブロードウェイ♪ブロードウェイ/コーラスラインにかける夢』は、そのオーディション風景を丁寧に取材したドキュメンタリー映画だ。「コーラスライン」はダンサーのオーディションをモチーフにした作品なのだが、その作品のオーディション風景を画面に映し出しながら、「コーラスライン」の中でダンサーたちの気持ちを歌ったナンバーを散りばめていく。これがじつに効果的なのだ。1970年代に作られたミュージカル・ナンバーが、現代のオーディション風景とぴったり重なり合うことで、30年の時を越えて「コーラスライン」は現代の物語になる。
この映画は2006年の再演版だけでなく、1975年のオリジナル版「コーラスライン」誕生の秘密にも迫っていく。まだショーの構成さえできていなかった頃、マイケル・ベネットが仲間のダンサーたちを集めて収録した集団インタビューの録音テープ。これが「コーラスライン」の原型になっている。ダンサーたちが語る自らの生い立ちやダンスへの思い、家族や仕事や恋愛についての若者ならではの悩みや葛藤などが素直に語られ、その多くがそのままの形で「コーラスライン」の台詞に取り入れられているのだ。そもそも「コーラスライン」という舞台そのものが、当時の若いダンサーたちのインタビューを再構成したセミドキュメンタリーだったことがわかる。
何者でもない若者たちが、何者かになろうともがく姿を描くのが青春映画だ。このドキュメンタリー映画は、そういう意味でまさに青春映画の条件を満たしている。バックステージ・ミュージカルは1929年の『ブロードウェイ・メロディ』以来無数に作られているのだが、ドキュメンタリー映画の分野でそれをやってのけた例はあまりないと思う。オープニングの「I Hope I Get It」にドキドキし、エンディングの「What I Did for Love」にはホロリとさせられる。ミュージカル・ファンなら必見!
(原題:Every Little Step)
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