ハッピーフライト

2008/11/22 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン3)
飛行機が離陸して着陸する。その間に膨大なドラマがある。
手並み鮮やかなグランドホテル形式。by K. Hattori

ハッピーフライト  『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』で人気監督になった矢口史靖が、豪華キャストで描く飛行機映画。全日空の全面協力で同社が所有するジャンボ機を15日間に渡って借り切り、実際の空港内部で大規模なロケーション撮影を行うなどした結果、臨場感たっぷりのリアルな映像に仕上がっている。満員の乗客を乗せた旅客機が羽田からハワイに向かう途中でトラブルを起こし、台風接近で視界さえままならない空港に緊急着陸するという筋立ては、往年の航空パニック映画の形式を借りたもの。ひとつの飛行機とそれに関わる様々な人々の行動を、時系列に同時進行させていくグランドホテル形式のコメディ映画だ。

 矢口監督の作品では時折目に見えた「作り事」がギャグとして飛び出し、それが突出したシュールな笑いを生み出すのだが、今回の映画は全編リアリズムで通している。急にミニチュアのセットが出てきて笑わせたり、生身の人間をミエミエの人形とすげ替えて投げ飛ばしたりするスパイシーな矢口ワールドを期待していると、今回の映画はちょっと刺激不足かもしれない。「矢口監督もずいぶんとオトナになっちまったなぁ」という感じもするが、作家性(?)より作品の完成度を優先した監督の選択はそれとして評価しておくべきだろう。矢口タッチを抑えたおかげで、この映画は誰にでも楽しめるウェルメイドな娯楽作品に仕上がっている。それに多少シュールなギャグを抑えたとしても、随所に観られるオフビートなギャグの冴えっぷりはやはり矢口史靖ならではだろう。仕事の合間にCAたちがギャレーで食事をするシーンなどは、ついクスクス笑ってしまうではないか。

 飛行機映画では同じ飛行機に乗り合わせたパイロットとCAと乗客、それに地上で飛行機とやり取りする管制官のドラマが同時進行していくのが定番メニュー。この映画ではそれに加えて、乗客のチェックイン業務を行うグランドスタッフ、オペレーションセンターのスタッフたちなど、通常の飛行機映画ではあまり注目されることのない職種にもまんべんなく光が当てられているのがユニークだ。空港周辺にいる野鳥を追い払うバードコントロールなんて仕事があることを、この映画で始めて知る人は多いだろう。僕も初めて知った。

 1機の飛行機が空港を飛びだつまでに、いかに多くの人々がプロフェッショナルな仕事をしていることか! 飛行機を利用する乗客の立場からすると、チェックインしても搭乗手続きが始まるまで待たされたり、席に着いてからもなかなか飛び立たなくてイライラさせられることが多いのだが、この映画を観るとそうした文句も言いたくなくなる。案外それが、撮影に協力したANAの狙いだったりしてね……。

 ともあれこれは、今年観た日本映画の中でもトップクラスの面白さ。物語の中で登場人物たちがみんな、少しずつ成長していくのが気持ちいい。大満足の1時間43分だった。

11月15日公開 日劇2ほか全国東宝系
配給:東宝
2008年|1時間43分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.happyflight.jp/
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