GOTH

2008/11/26 映画美学校第2試写室
連続猟奇殺人に引き寄せられる高校生たちの物語。
ミステリーに非ず。ラブストーリーに非ず。by K. Hattori

GOTH―リストカット事件  2003年の本格ミステリ大賞を受賞した乙一のベストセラー「GOTH リストカット事件」を、『ポチの告白』の公開も控えている高橋玄監督が映画化した作品。若い女性を殺しては左手首を切断し、死体を飾り立てて放置するという連続猟奇殺人の犯人を、高校のクラスメイトである少年と少女が探し出そうとする物語。しかしこれは、一般的な犯人捜しのミステリーとはひと味もふた味も違う。主人公たちは犯人を「犯罪者=社会の敵」と考えているわけではなく、むしろ自分たちと同じ趣味を持つ仲間だとでも思っていようなのだ。人間を殺し、死体をもてあそぶ犯人に対する共感が、主人公たちを犯人に接近させていく。

 主人公の神山樹を演じるのは、『HINOKIO』や『テニスの王子様』の本郷奏多。樹は教室では明るく振る舞う普通の高校生だが、ひとりになると疲れたような気だるい表情を見せる。彼に自分と同類のニオイを感じて近づいてくるのは、いつも無表情で醒めた顔をしている美少女・森野夜。演じている高梨臨は演技が硬くて平板なようにも思えるが、それが周囲にとけ込めない少女役にはぴったりとはまっている。

 「死」に引き寄せられてる人間たちの物語だ。主人公ふたりは死体写真を見たり怪奇小説を読むことに耽溺する風変わりな高校生で、連続猟奇殺人事件の死体発見現場に出かけては犯人や被害者と同化することに喜びを感じている。主人公の樹が犯人にもっとも共感するのは、犯人が被害女性に性的な暴行を加えていないという点。生身の人間の命を奪ってオブジェとして飾り立てる犯人に共感する樹は、死体発見現場に夜を連れ出して死体と同じ姿勢で現場に横たわらせる。この瞬間、樹は現場で犯人と同じ風景を見ているのだ。夜もまた「死」の中を生きる宿命を負っているのだが、その秘密が明らかになるのは映画の最後になってから。しかしこの真相が、「衝撃の告白」のような驚きを生み出すことはない。「死」は樹と夜をより深く結びつけるだけなのだ。

 物語のフォーマットとしては、高校生カップルが凶暴な連続殺人犯を捜すという素人探偵型のフォーマットをなぞってはいる。しかしこの映画では、主人公ふたりの間に恋愛感情が芽生えそうな気配はゼロだ。ふたりを結びつけているのはエロス(性)ではなくタナトス(死)。エロスを欠いた主人公たちの間に通常の恋愛感情が育まれる可能性は低いと思うのだが、あるいはタナトスに結びつけらて切り離されることのない男女関係もあり得るのか。

 リストカット殺人の犯人と被害者も「死」によって結びつけられているが、その死はどれほど飾り立てても一過性の関係でしかなかった。だから犯人は何度も犯行を繰り返し、新しい被害者と「死」による関係を結んでいかなければならない。でも樹と夜はどうだろうか? 彼らは生きながらにして「死」に結ばれたカップルとして、それなりにうまく関係を続けられるかもしれない。

12月20日公開予定 渋谷シアターTSUTAYAほか全国順次ロードショー
2008年|1時間36分|日本|カラー|ビスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.goth-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:GOTH
原作:GOTH(乙一)
関連DVD:高橋玄監督
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