シェルブールの雨傘

デジタルリマスター版

2008/12/02 銀座テアトルシネマ
カトリーヌ・ドヌーヴ主演の傑作ミュージカル映画。
豊かな色彩と音楽に酔う1時間半。by K. Hattori

シェルブールの雨傘 オリジナル・サウンドトラック完全盤  1957年、フランス北西部の港町シェルブール。小さな傘屋の一人娘ジュヌヴィエーヴと自動車修理工場で働く青年ギイは、互いに深く愛し合う恋人同士。少しでも一緒にいたい、ずっと一緒にいたいと願うふたりは結婚を誓い合うが、ジュヌヴィエーヴの母は「あなたも相手もまだ若すぎる」とこれにまったく取り合わない。そんな時、ギイに召集令状が届く。兵役義務は2年だが、若い恋人たちにその時間はあまりにも長い。しかもフランスはアルジェリア戦争の真っ直中で、場合によってはギイも戦地に送り出されるだろう。ふたりは最後の夜を一緒に過ごし、再会を堅く誓い合って涙ながらに別れてゆく。それから数ヶ月。ジュヌヴィエーヴはギイの子供を妊娠していたが、彼と離ればなれの時間が彼女を不安にさせていくのだった……。

 1964年に製作された、ジャック・ドゥミ監督のミュージカル映画。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ。音楽はミシェル・ルグラン。この映画はミュージカルといっても通常の台詞から歌や踊りに移行するのではなく、最初から最後まで台詞のすべてを歌にするオペラのような形式になっているのが特徴。最初はこれがとても作為的で不自然に思えるのだが、数分たつと違和感が消えて、むしろメロディックな独唱や二重唱への移行がこれほどスムーズな方法はあるまいと思わせられる。

 映画は三部構成。最初は愛し合う主人公たちの別れまでを描く「旅立ち」で、これはふたりのエピソードを客観的に公平に描いている。第二部はギイの出征中にジュヌヴィエーヴが別の男性から求婚されてこれを受け入れるまでを描いた「不在」だが、ここにはギイがまったく登場せず、ジュヌヴィエーヴひとりの視点で物語が進行していく。そして第三部は、シェルブールに戻ってきたギイの視点でその後の彼の人生を描く「帰還」だ。映画の最後にはジュヌヴィエーヴとの劇的な再会シーンが用意されているが、これもギイの視点から描かれている。

 アルジェリア戦争というひとつの時代性を背景にした物語ではあるものの、ここに描かれている男女関係はどんな時代にも変わらぬ普遍性を持つものだろう。愛し合う男女が離ればなれになり、互いに相手への気持ちを残しながらも別れてしまう悲劇。映画の最後に偶然再会したふたりが互いの子供の名前を教え合うシーンは、別れた後もふたりの気持ちがそう簡単に割り切れるものではなかったことを示している。ただしこの名付けはそれほど強調されない。(子供の名付けというアイデアをより劇的に展開させたのは、ヴィットリオ・デ・シーカの『ひまわり』だ。)ここで力を発揮するのはテーマ曲。ギイ出征の日に歌われた別れの曲が再びオーケストラで力強く演奏されるのだが、このメロディを主人公たちが口にすることは決してない。それがかえって、抑圧されたふたりの今の気持ちを代弁することになる。

(原題:Les Parapluies de Cherbourg)

2009年1月下旬公開予定 シネセゾン渋谷
配給:ハピネット 宣伝:マジックアワー
1964年|1時間31分|フランス、ドイツ|カラー|1:1.66
関連ホームページ:http://demy.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:シェルブールの雨傘
DVD (Amazon.com):The Umbrellas of Cherbourg
サントラCD:シェルブールの雨傘
シナリオ:シェルブールの雨傘―仏和対訳シナリオ
関連DVD:ジャック・ドゥミ監督
関連DVD:カトリーヌ・ドヌーヴ
関連DVD:ニーノ・カステルヌオーヴォ
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