The ショートフィルムズ

みんな、はじめはコドモだった

2008/12/08 シネマート銀座試写室
ベテラン監督たちが描く「オトナとコドモ」の風景。
朝日放送新社屋完成記念映画。by K. Hattori

大切にするからね  大阪の朝日放送がデジタル放送に対応した最新設備の新社屋を建設し、その記念行事の一環として日本を代表する映画監督5人に同じ「こども」をテーマに短編映画の製作を依頼した。2008年7月、完成した映画は新社屋と同時に完成した新しいABCホールで無料上映が行われる。これが思った以上に好評で一般公開を希望する声が上がり、今回の一般劇場での公開にこぎ着けたのだという。以下、各作品の監督、タイトル、簡単な感想を述べておく。

 トップバッターは阪本順治監督の「展望台」。通天閣の展望台から飛び降り自殺をしようとする男(佐藤浩市)が、母親に置き去りにされた少年と出会って一夜を過ごす。何も知らないような無邪気な顔をして、じつは子供は何でも知っている……という話。

 2番手は井筒和幸監督の「TO THE FUTURE」。日々のストレスで精神のバランスを失いかけている小学校教師(光石研)と、教師の感情の振幅にさらされる子供たち。何かとストレスのたまる世の中で、子供たちは自分たちが何でも知っているような顔をしている……という話。

 3番目は大森一樹監督の時代劇「イエスタデイワンスモア」。父の死後に居酒屋をひとりで切り盛りしている母(高岡早紀)を助けるため、子供が浦島駄郎(岸部一徳)の玉手箱で青年(佐藤隆太)に成長して店を手伝う話。母親が息子とは知らず青年に言い寄ったりするのだが、心は子供のままの息子にはその意味がわからず戸惑ったりする。子供には大人の気持ちがよくわからない……という話。

 4番手は李相日監督のファンタジー「タガタメ」。医者からガンで余命幾ばくもないと宣告された男(藤竜也)が、知的障害を持つ息子(川屋せっちん)の将来を悲観して無理心中しようとするが、それを風変わりな死神(宮藤官九郎)に止められる。大人は子供のことをわかっているようで、じつは何もわかっていないのだ……という話。

 最後は崔洋一監督の「ダイコン/ダイニングテーブルのコンテンポラリー」。仕事をリタイアした夫婦(樹木希林と細野晴臣)のもとに、一人娘(小泉今日子)が夫(山本浩司)と別れて出戻ってくる。夫婦や親子間での、通じているのか通じていないのかわからない会話のやり取り。いい年をした大人も子供も、他人どころか自分のことすらよくわかっていない……という話。

 各映画のテーマは「こども」なのに、浮かび上がってくるのは子供と向き合う「おとな」や「親」たちの姿。子供の問題というのは、じつは大人の問題なのだという意識が、これらの映画を作った人たちの中で共有されているようにも見える。しかし同時にこれは、子供のそばにいる大人を通して子供の世界に接近するという、短編映画の語りテクニックでもあるのかもしれない。長編映画ならもっと細かくエピソードを積み上げて、子供自身の目を通した子供の世界を構築していくことも可能だっただろう。

12月23日公開 有楽町スバル座
配給:リトルバード 宣伝強力:オフィス・リブラ
2008年|1時間32分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://asahi.co.jp/films/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:みんな、はじめはコドモだった
主題歌「おやすみベイビー」収録CD:大切にするからね(風味堂)
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