キャラメル

2008/12/17 京橋テアトル試写室
レバノンの首都ベイルートを舞台を舞台にした女たちのドラマ。
監督自身がヒロイン役で主演。美人です。by K. Hattori

Caramel  タイトルの『キャラメル』とは砂糖を煮詰めてレモン汁を加えた甘いお菓子のことだが、ベイルートでは作りたてでまだ軟らかいキャラメルを脱毛ワックス代わりに使う。口に入れれば甘いキャラメルも、肌に押し当てて引っぺがせば激痛のもと。しかしそれはベイルートの女たちにとって、美しくなるための儀式みたいなものなのだ。この映画はそんなキャラメル脱毛も行っているベイルートのエステサロン(美容院)を舞台に、店で働く女たちや常連客、近所の住人など、5人の女たちを巡る女性視点の群像劇になっている。監督・脚本のナディーン・ラバキーは、映画にもヒロイン役で主演。妻子持ちの男と不倫中している店のオーナー、ラヤールを演じている。かなりの美女で他にも何本かの映画に出演しているが、もともとは大学でメディア学を学び、在学中から短編映画を撮っていたのだという。長編映画はこれが初めてながら、ミュージック・ビデオやCMの演出経験は豊富なようだ。

 そもそもレバノンなどと聞いても、日本人のほとんどはその場所さえわからないだろう。僕も「中東のどこかで、イスラエルの近く」ぐらいしかわからない。地図で見ると、西に広がる地中海沿いにイスラエルと南で国境を接し、東と北をシリアに囲まれた小さな国だ。人口のほとんどがアラブ人だが、宗教人口としてはキリスト教徒が3割以上いるという国。第一次大戦後にフランスの統治下に入ったことから、独立後の今でもフランスとは密接な関係を保ち、国内でもフランス語が通用するのだという。反イスラエルの過激派組織ヒズボラの本拠地でもあり、しばしばイスラエルと武力衝突を起こしている国でもある。対外的にも国内的にも、いろいろと落ち着かない国なのだ。監督がこの映画を編集していた2006年夏には、ヒズボラとイスラエル軍の間で大規模な戦闘が起きている。

 だが映画の中にはそうした騒々しさも血なまぐささもない。そこにあるのは、実らぬ恋に悩み、結婚を前に右往左往し、老いを恐れる、世界中どこにでもいるであろう女たちの姿だ。この映画のプロットは、そっくりそのまま別の国の物語としてリメイクすることができるに違いない。本作がレバノン国内で大ヒットしただけでなく、国際的にも高い評価を受けてセールスも上々ということは、レバノンの事情などまったく知らない人たちもまた、この映画に登場する女たちの中に自分たちの物語を読み込んでいるからに違いない。

 客の男性に好意を持たれてときめく老女ローズの悲恋物語や、ヒロインのラヤールに恋する警官のエピソードなども印象的なのだが、劇中で最も身につまされたのは若さに固執する中年女優ジャマルの物語。彼女がオーディションで屈辱的な思いをする場面も気の毒だったが、映画のラストで明かされる彼女の秘密には驚き、この映画の中ではもっとも残酷なドラマだと思った。時は流れる。それでも人は、今を生きていかねばならない……。

(英題:Caramel)

1月31日公開 渋谷・ユーロスペースほか全国順次ロードショー
配給:セテラ・インターナショナル
2007年|1時間36分|レバノン、フランス|カラー|1:1.85|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.cetera.co.jp/caramel/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キャラメル
DVD (Amazon.com):Caramel
サントラCD:Caramel
関連DVD:ナディーン・ラバキー監督
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