『レッドクリフ』と銘打ちながら、肝心の「赤壁の戦い」まで話が進まなかった『レッドクリフ PART I』に続き、いよいよ完結編の本作では歴史に名高い大決戦が描かれる。国家統一の野望を実現すべく大軍を率いて周辺国と戦いを繰り広げていた曹操は、赤壁の戦いで劉備・孫権の連合軍に大敗したことで、天下統一の覇者になるという夢を捨てざるを得なくなる。赤壁の戦いこそ中国史における天下分け目の大決戦。本作『レッドクリフ PART II』の原題は『赤壁 決戦天下』。この一戦が、その後の歴史を決することになったのだ。
前作は序盤に曹操軍と劉備軍による「長坂の戦い」を配置し、中間に劉備と孫権の同盟に至る政治的駆け引きをはさんで、クライマックスは曹操先発隊が諸葛亮の作戦「九官八卦の陣」によって殲滅される様子を描いていた。アクションシーンもあるにはあるが、物語としては人物紹介と政治的な駆け引きが中心になっている。「九官八卦の陣」は迫力ある陸戦シーンだったが、物語の中では観客向けのサービスであって、これ自体はあってもなくてもいいもの。『レッドクリフ』という映画が前後編二部作になってしまったことから、前半のクライマックスとして無理矢理創作されたエピソードと解釈することだってできるのだ。その証拠に、この戦いについては『レッドクリフ PART II』でほとんど何も触れられることがない。アクションシーンはドラマとしての必然性が兼ね備えられていてこそ輝きを増すものだが、その点で「九官八卦の陣」には弱味があると言わざるを得ない。
それに対して本作は正真正銘の決戦を描くクライマックスであり、「赤壁の戦い」にはドラマとしての必然性が十分に盛り込まれている。曹操の野望と、それを阻まんとする劉備孫権連合軍の対立は最高潮に達し、川をはさんで対峙する両軍はもはや衝突せずには済まない状態になっている。この戦いに後戻りはない。互いが死力を尽くして戦わねばならない状況に、登場人物全員が追い込まれているのだ。賽は投げられた。あとは戦うのみ!
戦いの火ぶたが切って落とされるのは映画の終盤であり、観客の誰もがそこで繰り広げられるであろう大スペクタクルを待ち望んでいる。しかし映画はそんな観客の気持ちに逆らって、戦闘開始の瞬間をじりじりと先延ばしにしてゆく。これは大きな弓の弦をギリギリと引き絞っているようなもの。長く引っ張って力を溜め込めば溜め込むほど、それが開放される力は大きなものになる。いよいよ戦いが始まると、その圧倒的な迫力は目を見張るばかり。これはジョン・ウー版の『プライベート・ライアン』だ。迫力満点だがリアルで残酷な戦闘シーンの連続は、いかなる理由があれ戦争は「破壊」でしかないことを観客に思い知らせる。最後にぽつりと漏れる「勝者はいない」という台詞は『七人の侍』へのオマージュであると同時に、この映画のテーマでもあろう。
(原題:赤壁:決戦天下 Red Cliff Part II)
レッドクリフ Part II
サントラCD:レッドクリフ コンプリート・アルバム サントラCD:赤壁II(台湾盤) 主題歌CD:久遠の河(alan) 関連DVD:ジョン・ウー監督 関連DVD:トニー・レオン 関連DVD:金城武 関連DVD:チャン・フォンイー 関連DVD:チャン・チェン 関連DVD:リン・チーリン 関連DVD:ヴィッキー・チャオ 関連DVD:中村獅童 関連DVD:フー・ジュン |