バリー・アイスラーのベストセラー「雨の牙」を、オーストラリア人のマックス・マニックスが脚色監督したサスペンス・スリラー映画。原作も監督も外国人だが、物語の舞台は日本、そして登場人物はほとんどが日本人で、劇中の台詞もほぼ日本語という映画だ。マニックス監督は黒沢清監督の『トウキョウソナタ』の脚本家であり、かつて10年以上日本で暮らしていたことがあるのだという。また原作者アイスラーは弁護士として日系企業で働いた経験があり、3年ほど日本にも滞在して日本語はペラペラ、日本文化に造詣が深く、柔道は黒帯の腕前という親日派のアメリカ人。(彼はどういうわけかCIAの戦略スタッフだったという経歴もあり、その経験が本作「雨の牙」とその後のシリーズにも反映しているのだという。)
国交省の官僚川村は省内の秘密データを記録したメモリーチップを極秘に省外に持ち出し、何者かに手渡そうとしていた。日米ハーフの殺し屋ジョン・レインに依頼されたのは、川村を自然死に見せかけて殺し、メモリーチップを奪うこと。殺害は成功したが、川村はチップを持っていなかった。だが仕事の依頼人やレインを監視していたCIAは、レインがチップを持ち去ったと考えて彼を捕らえようとする。身辺に近づく危険な予感を察知したレインは、真相を探るため川村の家族に接近するのだが……。
日本を舞台にした映画だが、ここに描かれるのは「外国人の目」から見た日本。だからといって日本のエキゾチックな文化がことさら強調されているわけでもなく、日本の中で暮らしている生活者の視点になっているところが面白い。日本の中の当たり前の風景が、ごく当たり前に登場するのが、むしろ当たり前に見えないという不思議な感覚。繁華街の雑踏、地下鉄、コインロッカー、ラブホテル、迷路のような路地裏などの日常風景が、映画の小道具として大活躍している。それが物語の「背景」として描写されているのではなく、ちゃんと「小道具」として物語に寄与しているのだ。
椎名桔平が日米ハーフの殺し屋に見えるかどうかはともかく、表情をあまり表に出すことなく淡々と事務処理のように殺しの任務を遂行する姿には不思議なリアリティがある。マット・デイモンが『ボーン・アイデンティティ』などで演じたジェイソン・ボーンと、『ノー・カントリー』でハビエル・バルデムが演じた殺し屋アントン・シガーの中間のような雰囲気かもしれない。原作はさらに続編があるので、同じスタッフとキャストでシリーズ化してほしい気もするが、はてさて、それが可能だろうか……。
というのもこの映画、サスペンス・スリラー映画としてのデキはまあ標準レベル。国際的なスタッフにはなっていてもそこは日本映画であって、ハリウッド映画のスケール感には遠く及ばない。最後のニューヨークでのロケも含めて、どこかしら絵作りが安く感じられるのは残念。
(原題:Rain Fall)