今度の日曜日に

2009/03/04 京橋テアトル試写室
韓国人留学生が大学構内で見つけた変なオジサンの正体は?
歌手ユンナの初主演映画。by K. Hattori

 映像の勉強のため日本に留学した憧れの先輩を追って、同じ日本の大学への留学を決めた韓国人の女の子ソラ。しかし先輩は自分と入れ違いに帰国しており、彼女だけが友人もいない異国の大学に取り残されてしまう。映像の勉強より先輩とのラブラブ学園生活が目当てだったのに、とんだ期待はずれ。今さら韓国に帰るわけにも行かないまま、ソラは目の前にある学校の課題制作に取り組もうとする。テーマは「興味の行方」。抽象的なテーマをどう作品にすればいいか悩むソラは、学校で働く用務員のおじさんが、夜はピザ屋の配達員、朝は新聞配達の仕事もしていることを知る。「あの人はいったい、いつ寝てるんだろうか?」。これで対象は決まった。タイトルは「24時間働くおじさん(課題)」。ソラはそのおじさんに、撮影への協力を依頼するのだが……。

 主人公のチェ・ソラを演じるのは、日本で活動している韓国人歌手ユンナ。24時間働き続けるおじさんこと松元さんを演じるのは、歌舞伎の名門高麗屋の御曹司である七代目市川染五郎。彼の主演映画はいくつかあるが、きちんとした現代劇というのは珍しい。今回の役は借金返済のためボロアパートで暮らしながら死にものぐるいで働き続ける中年男というもので、はっきり言って冴えない、どんくさい男。男のやもめ暮らしは不潔だし(押し入れには汚れた服や下着が押し込んである)、仕事が忙しいせいか昼間は居眠りをしているし、仕事を失いたくないあまり卑屈に振る舞う姿は哀れですらある。しかしそれを染五郎が演じると、役柄の設定とは別のところで清潔感を感じさせてしまうのだから、キャスティングというのは不思議なものだし大切なものだ。

 物語は若者の淡い恋愛感情から始まるが、映画の最後に残る主人公たちの気持ちは何だろうか? これもひとつの「愛」ではあるだろう。でもこれは恋愛感情か? たぶん違う。では友情だろうか? それともちょっと違うような気がする。ではなんだろうか? それはたぶん、あえて名付けるなら「隣人愛」とでも呼ぶしかないような、人間同士の温かい交流だ。「袖触れ合うも多生の縁」という言葉があるが、恋愛でも友情でもないけれど、たまたま親しくなった相手との間に生まれた関係性の中に、自分にとってかけがえのない何かを感じる気持ち。相手を思いやり、相手が自分にとって大切な人なのだと感じる気持ち。

 人間同士の関係に何かのレッテルを貼り、恋人、友だち、クラスメート、同僚、先生と生徒、親子などとカテゴライズしたがる人には、おそらく主人公たちの関係は不可解で奇妙なものに見えるだろう。でもこの世には大勢の人間がいて、それがいろんな形で結びついている。それにいちいち名前を付けなくてもいいではないか。そうした曖昧さやあやふやさを受け入れていくことが、ひょっとしたら大人になるということなのかもしれない。ソラは映画の最後に、ひとつ大人に成長するのだ。

4月11日公開予定 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:ディーライツ 宣伝協力:リリオ
2009年|1時間45分|日本|カラー|ヨーロッパビスタ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.nichiyoubini.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:今度の日曜日に
サントラCD:今度の日曜日に
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