バーン・アフター・リーディング

2009/03/26 GAGA試写室
見栄と嘘ばかりの人間たちが織りなすドタバタ喜劇。
登場人物がみんなバカばっか! by K. Hattori

Burn after Reading [Original Motion Picture Soundtrack]  スリラー映画の世界には「マクガフィン」という概念がある。それは主人公も含めた大勢の人間たちが追いかけ回す大切な何かのこと。脚本家の故・笠原和夫が「秘伝 シナリオ骨法十箇条」の中で「オタカラ」と呼んでいるものに近いが、それが物語のテーマに関わる『葛藤の具体的な核』である必要はない。フランソワ・トリュフォーによるヒッチコックのロングインタビュー「映画術」によれば、マクガフィンとは『冒険小説や活劇の用語で、密書とか重要書類を盗み出すこと』であり、『基本原理としてのマクガフィンは、シリアスな意味がある必要はないどころか、むしろデタラメで何の意味もないほうがいい』とのこと。それは物語を進行させるための屁理屈みたいなもので、ヒッチコックの映画では大勢が寄ってたかって追い掛ける秘密の中身が、じつは空っぽで何もないというようなことがしばしば起きる。マクガフィンとは無意味なものなのだ。

 コーエン兄弟はそんなヒッチコックの流儀を知ってか知らずか(もちろん知っているに違いないのだが)、この映画で突飛なマクガフィンを考案した。それは文字通りデタラメで無意味なもの。アル中でCIAをクビになった元調査官が、気まぐれに綴ったヘナチョコ自叙伝の下書き原稿だ。それがどういうわけかCDにコピーされて流出し、フィットネスクラブのロッカー室に置き忘れられていたから大変。クラブの従業員がそれを「本物の超極秘文書」と勘違いし、「これは金になる!」と踏んだことから大騒動が巻き起こるのだ。

 それにしても出演者たちが超豪華。ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジョン・マルコヴィッチ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、リチャード・ジェンキンスなど、ハリウッドの大物スターがずらりと顔を揃えている。この全員がアカデミー賞受賞者、あるいはノミネート経験者なのだから恐れ入る。コーエン兄弟もアカデミー賞監督だし、とにかくこれは現在のハリウッドを代表する錚々たる面々。これに匹敵する映画は、最近だと『オーシャンズ11』とその後のシリーズぐらいだろうか。オスカー監督とオスカー俳優たちが手を組んで、おバカな犯罪コメディを作っているという共通点もある。面子もちょっとダブってますな……。

 しかし映画の方向性は正反対。『オーシャンズ』は登場人物たちがみんな切れ者のプロフェッショナルばかりだが、『バーン・アフター・リーディング』は登場する全員がひとりの例外もなく大馬鹿野郎でお間抜けのコンコンチキ。しかしながら、『オーシャンズ』の登場人物たちより、この映画の登場人物たちのほうがずっと身近で共感できる人間たちだろう。世の中「切れ者のプロフェッショナル」より、「大馬鹿野郎でお間抜けのコンコンチキ」の方がずっと数が多いのだ。

 この映画の大馬鹿間抜けのナンバーワンは、間違いなくブラピ。彼の満面の笑みを、観客は決して忘れないはずだ。

(原題:Burn After Reading)

4月24日公開予定 TOHOシネマズスカラ座ほか全国ロードショー
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、日活
2008年|1時間36分|アメリカ|カラー|ビスタ|DTS、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://burn.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:バーン・アフター・リーディング
DVD (Amazon.com):Burn After Reading
サントラCD:Burn after Reading
ペーパーバック:Burn After Reading
関連DVD:ジョエル&イーサン・コーエン監督
関連DVD:ジョージ・クルーニー
関連DVD:フランシス・マクドーマンド
関連DVD:ブラッド・ピット
関連DVD:ジョン・マルコヴィッチ
関連DVD:ティルダ・スウィントン
関連DVD:リチャード・ジェンキンス
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