1970年代初頭、「誰よりもサーフィンが上手くなりたい!」「世界一のサーファーになりたい!」と願う若者は、世界のどこにいようとハワイ・オアフ島のノースショアを目指した。毎年冬にはアリューシャン沖の低気圧が生み出した大きなうねりがノースショアに押し寄せ、山のような大波が海岸線のすぐ近くで砕け散る。これぞ文句なしに世界一の波だ。この映画の主人公は、オーストラリアや南アフリカ出身の若いサーファーたち。彼らは地元ハワイのサーファーたちに混じってノースショアの大波にチャレンジし、めきめきと腕を上げていく。地元のサーファーが大きくて形のいい波を狙って粘るのに対し、こうした外国人サーファーたちは次から次にどんな波にでも挑む。雨が降ろうが嵐になろうが海に出る。彼らは1年ほどをノースショアで過ごして決意する。「このまま一生サーフィンをして暮らしたい」「サーフィンを仕事にしたい」と。だが彼らがそんな決意をした1975年頃、世界にはプロのサーファーなど誰もいなかったのだ……。
サーフィンについてのドキュメンタリーは大量に作られているが、これはサーフィンの歴史についての映画だ。これは才能と夢しか持たなかった貧しい若者たちが、自分たちの力で夢を実現してゆく青春映画であり、20世紀になってハワイで再生した近代サーフィンが、ハワイのローカリズムを乗り越えて本当の意味で世界的なスポーツになっていく過程を描いた映画でもある。若者たちが自分自身の個人的な夢を実現していく過程が、そのままサーフィン界の革命とリンクしているというドラマチックな事実を紹介してくれる。ネタ切れ気味のハリウッド映画は、おそらく数年以内にこの話を劇映画にするに違いない。
この映画で紹介されているエピソード自体は、1970年代からサーフィンをやっている人たちや、ハワイのサーフィン事情に詳しい人にはよく知られているものらしい。しかしこの映画はそれを、すべて当事者に取材してインタビューを撮っているのだ。圧巻は主人公たち外国人サーファーたちの傍若無人な振る舞いが地元のハワイアン・サーファーたちの不評を買い、深刻な暴力沙汰になって命が危なかったという話。ハワイアンたちはブラックショーツというグループを作って主人公たちを繰り返し襲撃し、何度も半殺しの目に遭わせている。主人公たちはそれに対抗するため、車やベッドサイドに拳銃やショットガンを準備していたという。この映画ではブラックショーツのリーダーだったエディ・ロスマンにもインタビューしているが、もういい年のオジサンのくせにすごい迫力。このとき両者を仲裁したのがエディ・アイカウというハワイアン・サーファーだった。彼はこの数年後に仲間を救おうとして海に消え、伝説となる。
この映画の中では、いくつもの伝説が交錯すして火花を散らすのだ!
(原題:Bustin' Down the Door)
DVD:バスティン・ダウン・ザ・ドア
DVD:Bustin Down the Door [Import] 関連洋書:Bustin Down the Door 関連DVD:ジェレミー・ゴッシュ監督 関連書籍:ハワイアンサーフストーリーズ (フレッド・ヘミングス) 関連書籍:エディ・ウッド・ゴー!!―ハワイの海に消えた永遠の英雄伝説「エディ・アイカウ物語」 |