真夏のオリオン

2009/06/30 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン5)
日本の潜水艦と米駆逐艦による知略をつくした戦い。。
直球勝負の戦争映画で印象は悪くない。by K. Hattori

映画「真夏のオリオン」オリジナル・サウンドトラック  太平洋戦争が間もなく終わろうとする昭和20年8月の太平洋を舞台に、日本海軍の潜水艦と米駆逐艦の息詰まる戦いを描いた戦争映画。原作は日本の潜水艦イー58による米巡洋艦インディアナポリス撃沈の史実をモチーフにした池上司の小説「雷撃深度一九・五」だが、映画はイー58の艦長だった橋本以行の人物像やエピソードを参考にしつつ、自由に脚色されたフィクションだ。「雷撃深度一九・五」の映画化権を取得した上で製作された作品なので「原作」という扱いにはなっているのだろうが、発想の原点は1957年製作のアメリカ映画『眼下の敵』であり、米駆逐艦とドイツのUボートの戦いを、米駆逐艦と日本のイ型潜水艦の戦いに置き換えたものだ。

 潜水艦映画としては約束通りの見せ場が満載だが、あまりにもお馴染みのシーンばかりで新鮮味はない。出港時に新しい乗組員として軍医が参加するのは、潜水艦ものの傑作『U・ボート』で最初に報道班員が乗り組んでくることを踏まえたエピソードだろう。この映画で新しさを感じるのは、潜水艦の乗員に混じって人間魚雷・回天の乗員を数人参加させたことだ。「生きるために戦う」と言う艦長に対し、ひたすら「死に場所」を求めて海に出た特攻隊員たちとの温度差。こうして狭い潜水艦の艦内に、微妙な軋轢ときしみが生み出される。これはイー58の実話が元になっているようだが、この設定がドラマとして生かし切れていないのは残念。映画の中では特攻隊員たちがいつも連れだってぞろぞろ歩き回り、それぞれの戦いへの思いや死への思いが表面的にしか語られていない。ひたすら「死」だけを求めるこの若者たちの心と、その裏側にある否定しがたい「生」への執着をもう少し掘り下げると、人間同士の葛藤のドラマがもっと濃いものになっただろうに。

 潜水艦側も駆逐艦側も歴戦の強者という設定だが、戦いの中で身にまとったカリスマ性が両者とも希薄に感じられた。イー77によって米軍側が10数隻の船を失っていることは台詞で語られているし、駆逐艦がこれまでにやはりかなりの数の潜水艦を葬ってきたことも艦橋のペイントで示されている。しかしそれでも、映画にはそうした「説明」以上の何かが欲しい。どちらも若い艦長だ。『眼下の敵』のロバート・ミッチャムやクルト・ユンゲルスに比ぶべくもない。戦争末期でベテラン艦長の数が少なくなっているという事情はあるにせよ、艦長ならばやはりそれなりの経験経歴があるはず。映画ではそのあたりが今ひとつ実感として伝わってこないため、倉本艦長が部下たちの意見を軽く受け流すたびに、少々頼りない気持ちになってしまったりするのだ。

 64年前の戦争を現代とどう結びつけるかは作り手にとってもチャレンジだと思うが、1枚の楽譜に時代の橋渡しをすべて委ねるアイデアは少し弱い。真面目に作った映画だと思うが、あと一歩、いやあと半歩、工夫が足りない映画だとも思う。

6月13日公開 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝
2009年|1時間59分|日本|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.manatsu-orion.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:真夏のオリオン
サントラCD:真夏のオリオン
原作:雷撃深度一九・五(池上司)
ノベライズ:真夏のオリオン(飯田健三郎)
ノベライズ:真夏のオリオン(福井晴敏、網中いづる)
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