シネマ歌舞伎

怪談 牡丹燈籠

2009/07/01 イマジカ第2試写室
有名な怪談話を名優ぞろいのシネマ歌舞伎にした。
さんざん笑わせて、最後は悲劇に向かう。by K. Hattori

Botandourou  幕末から明治に活躍した落語家・三遊亭円朝の「怪談牡丹灯籠」は、「真景累ヶ淵」や「怪談乳房榎」と並ぶ円朝怪談の代表作。明治17年には速記本が世に出て「言文一致」のモデルとなり、明治25年には三世河竹新七の脚色で歌舞伎化され、五世尾上菊五郎らのにより上演されているという。その後もこの話は何度も芝居となり映画となっているが、今回のシネマ歌舞伎は平成19年10月の歌舞伎座公演を舞台映像化したもので、台本は昭和49年に大西信行が文学座のために書き下ろしたものを使用している。これは舞台の上に、原作者である円朝本人が出演するという趣向。坂東三津五郎扮する円朝が「怪談牡丹灯籠」を語り始めると、それに合わせて世にも恐ろしい怪談話がはじまるのだ。落語という語り芸の世界と、歌舞伎という芝居の世界が、映画的な手法で結びつけられているような演出は面白い。

 「牡丹灯籠」と言えば、夜ごと恋する男のもとに若い女の幽霊がカラリコロリとゲタの音を響かせながら通う話。しかしこの幽霊話は、物語の前半部分で終わってしまう。物語の後半は、幽霊の出てこない人間ドラマなのだ。後半では2組の男女の愛憎がもつれ合いながら死へと向かって行くのだが、この2組の内1組は怪談話に直接関係を持つものの、もう一方は怪談とは関係のない殺人事件の話だ。怪談話に係わりのある男女にしても、一体なぜ彼らが呪い殺されねばならないのかはよくわからない。彼らはお露の幽霊の願いを叶えてやったのだから、お露に恨まれる筋合いのあるはずがない。ではお露の幽霊にとり殺された新三郎は、彼らを恨んでいるだろうか? 自分に恋い焦がれて焦がれ死にした女にとり殺されるなら、むしろ男冥利に尽きようというもの。そもそもお露と新三郎は、もとから好き合った仲ではないか。お露が幽霊になった後も、何度か情を交わした仲なのだ。そのふたりをいわば添い遂げさせてやった伴蔵とお峰が、彼らに恨まれる筋合いはなかろう。

 ではなぜ伴蔵お峰の夫婦が死なねばならなかったのか? それは「他人の死の上に成り立つ幸福など、決して本当の幸福ではあり得ない」という日本人の倫理観によるものだろう。新三郎の死によって伴蔵とお峰は百両の金を手に入れ、それを元手に荒物屋を開いて成功する。しかしこの金は後ろ暗いところがある金だ。恩義のある新三郎を自らが手にかけたのではないにせよ、新三郎が幽霊にとり殺されることを承知で、伴蔵は家の高窓からお札をはがしてしまった。百両の金欲しさにだ。それさえあれば、長年の貧乏暮らしから抜け出せる。たとえ贅沢はできなくても、夫婦ふたりで死ぬまで困らないだけの財産にはなる。そんなささやかな幸福を夢見て、伴蔵とお峰は新三郎を死に追いやる。

 妻のお峰を斬り殺した伴蔵が、逃げ出すこともできぬままお峰の遺骸にすがって泣き叫ぶシーンで映画は幕。この後の伴蔵はどう生きていくのか? それはそれで、地獄だよなぁ……。

7月11日公開予定 東劇ほか全国順次ロードショー
配給:松竹 宣伝:スキップ
2009年|2時間35分(途中休憩あり)|日本|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/botandoro/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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原作:牡丹燈籠(三遊亭円朝)
脚本:牡丹燈籠―大西信行第一戯曲集 (1974年)
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