母なる証明

2009/08/07 映画美学校第1試写室
無実の罪で逮捕された息子を救うため母親が奔走。
ここにあるのは紛れもない「愛」なのだ。by K. Hattori

Hahanaru  子供の心を持ったまま成長したトジュンは、子鹿のような目をした純粋無垢な青年だ。家では母が漢方薬を売って、親子ふたりが細々と暮らしている。幼なじみのジンテとつるんで時には警察の厄介になることもあるが、母はいつでもトジュンをかばい続ける。貧しくとも平和で幸福な暮らしだ。だがそんな平和は、一件の殺人事件によって突然終わる。同じ町に住む女子高生が殺され、容疑者としてトジュンが逮捕されたのだ。警察はいくつかの状況証拠から犯人はトジュンだと決めつけ、素直なトジュンは刑事たちの誘導のまま自分でもよくわからないまま自らの犯行を認めてしまう。母はもう一度事件を調べ直すよう刑事に直談判するが、警察はまるで取り合ってくれない。息子の潔白を証明するには、自分の手で真犯人を突き止めるしかない。母が殺された女子高生の周辺を調べはじめたところ、そこには誰もが見逃していた恐るべき真実が隠されていた……。

 『殺人の追憶』や『グエルム―漢江の怪物―』のポン・ジュノ監督が、ベテラン女優のキム・ヘジャと、兵役後5年ぶりの映画出演となるウォンビンを主演に迎えて撮ったミステリー映画。物語の枠組みとしては、「無実の罪を着せられた容疑者を救うための真犯人を捜し」という定番の筋立てがあり、警察がまるで見落としていた事件の隠された真相を主人公たちが暴き出していくというお決まりの展開が用意されている。しかしこの映画の中心は犯人捜しにあるわけではなく、息子を救い出そうとする「母の愛」にある。物語が事件の核心に近づいてゆくほどに、そこからは盲目的で愚かしいまでの「母の愛」が突出して浮かび上がってくるのだ。

 「愛」とは美しく、正しいものだと誰もが信じて疑わない。だが本当だろうか? この映画は「愛」を描いているが、その「愛」は必ずしも万人が美しくて正しいと認めるものではないかもしれない。容疑者となったトジュンとその母の間にある「愛」は、当人たちにとっては混じり気無しの純粋な「愛」かもしれないが、周囲の人たちは必ずしもそうは見ていない。そこにあるのは近親相姦的なニオイ。トジュンは周囲から「お前は母親と寝ているだろう」とからかわれるが、その言葉の意味するものがどうであれ、この母と息子の間には通常の親子関係でははかりきれない何かがある。それは共に生きることより、むしろ「死」によって結びつけられた関係なのだ。主人公親子だけではない。この映画では被害者となった少女の周囲からも、陰惨な「愛」の腐臭が漂ってくる。ここに描かれる「愛」たちの、なんというむごたらしさ!

 映画の舞台となった町の設定が秀逸。どこにでもある、ありふれた田舎町なのだろう。ここ何年も、殺人事件など起きていない平和な町だ。たぶん同じように平和な町は、世界中のどこにでもある。ありふれた風景。見慣れた日常。平凡な人々の暮らし。この映画はそんな「ありふれた風景」の素顔を暴く。

(英題:Mother)

秋公開予定 シネマライズ、シネスイッチ銀座、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド 宣伝:樂舎
2009年|2時間9分|韓国|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.hahanaru.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:母なる証明
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