家族を殺し傷つけた街の悪党どもを葬り去るため、ひとりの男が銃を握りしめて立ち上がる。法で裁けぬ悪党たちに、正義の弾丸を喰らわせてやるのだ。1974年にチャールズ・ブロンソン主演で製作された映画『狼よさらば(Death With)』は大ヒットし、その後4本の続編が作られる人気シリーズになった。この映画はブライアン・ガーフィールドの同名小説が原作。しかし原作者のガーフィールドは、続編映画には何らタッチしていない。『ロサンゼルス』『スーパー・マグナム』『バトルガンM−16』『狼よさらば・地獄のリベンジャー』などの続編は、映画の第1作目で生み出されたキャラクターをもとに映画会社が作りだしたオリジナルなのだ。原作者は1975年に「Death Sentence」という続編を書いているが、これは映画化されることなく30年以上放置されることになった。
ケヴィン・ベーコン主演の『狼の死刑宣告』は、ハリウッドが見捨てた小説「Death Sentence」の映画化だ。ただし内容的はオリジナルになっていて、劇中では『狼よさらば』で描かれている家族の悲劇が再度描かれることになる。つまりこれは『狼よさらば』の続編を原作に借りた、『狼よさらば』のリメイクなのだ。監督は『SAW』のジェームズ・ワン。
主人公は保険会社の重役として働くニック・ヒューム。美しい妻と2人の息子の4人暮らし。だが彼の平和で幸福な日常は、たった1日で根本から壊されてしまう。自慢の息子が、彼の目の前でギャンググループに惨殺されたのだ。犯人はすぐ捕まったが、検事が言うには犯人に対して法律で求められる最高刑は5年、場合によっては無罪になることも考えられるという。法の無力さに憤るニックは法廷での証言を拒否し、自分自身の手で犯人に復讐することを決意する。だがそれこそ、新たなる悲劇の始まりだった……。
暴力や殺人は非人間的な行為のように思われがちだが、じつはそれこそがもっとも人間的な行為なのかもしれない……というのがこの映画のテーマ。映画の序盤で主人公と部下が、亡くなった従業員の年金の扱いについて会話をするシーンがある。法に従って適正に処置しろと命じる主人公。部下が「不正が見つかるとまずいですよね」と言うと、主人公は「死んだ人間の行いに対してきちんと報いたいのだ」と返答する。問題は法律云々ではない。今生きている人間が、死んだ人間に対してどう振る舞うかが問題なのだ。暴力や殺人とはまったく関係のない会話だが、これが映画の中盤以降で生きてくる。主人公は「法律が問題ではない。死んだ人間にいかに報いるかが問題なのだ」という行動原理を、殺された息子に対しても適応しているに過ぎない。法が死者に報いてくれるならそれで構わない。だが法が死者をないがしろにするなら、死者に対して何かしてやれるのは自分しかいないではないか! 残酷な復讐こそ、もっとも人間的な行為なのだ。
(原題:Death Sentence)