銀色の雨

2009/10/01 シネマート銀座試写室
十数年ぶりに故郷に戻ってきたボクサーと高校生の交流。
浅田次郎原作の人情ドラマだが……。by K. Hattori

Giniro  プロボクサーだった父を幼い頃に亡くし、母親の故郷である鳥取県の米子で暮らしている平井和也。地元の新聞販売店に住み込みで働きながら、高校の陸上部で長距離選手として汗を流している。だが彼は周囲から「模範的な少年」と見られることに、常に息苦しさを感じている。些細なことで新聞店を飛び出し、特にあてのないまま東京に向かおうとした和也。だが終電を米子駅で逃し、たまたま出会ったのが、以前母の店で働き姉のように慕っていた菊江。引っ張り込まれるように上がり込んだ彼女の部屋で、思いがけない同棲生活(?)が始まるかと期待した矢先、彼女は駅で酔っぱらった客に絡まれていたところを助けてくれたひとりの男を部屋に連れてくる。岩井章次というその男は、米子出身のプロボクサーだった。和也は章次の中に亡き父の面影を見いだすのだが、じつはふたりの間には深い因縁があった……。

 原作は浅田次郎の同名短編小説(「月のしずく」所収)。原作は昭和40年代の大阪が舞台だが、それを現代の鳥取県米子に移している。監督は北海道初の人気TV番組「水曜どうでしょう」を手掛けた鈴井貴之で、これが4本目の映画監督作。出演者も豪華で、ワンシーンにしか登場しない小さな役にも、テレビや映画でお馴染みのタレントが顔を出していたりする。今回一番の目玉は、お笑いコンビ「サンドウィッチマン」のふたりが俳優として出演していること。輪島功一と竹原慎二がボクシングジムのトレーナー役で出演していたり、徳井優やルー大柴、大泉洋が端役出演したり。映画の規模としてはごく小さな作品なのだが、こうした出演者の厚みが、映画を深みのあるものにしていると思う。

 しかしこの映画、深みや奥行きは感じられても全体としては輪郭がはっきりしない、ボンヤリとした作品になっている。物語にわかりにくいところはほとんどないのだが、物語のどこに焦点が当てられているのかが明確でないのだ。深さや奥行きがあっても、見通しが悪い。深い森に迷い込んだように、目の前をさえぎる木々や下草をかき分けて進む内に、本来の道を見失って自分がどこにいるのかさえわからなくなるような感じだ。

 映画は3人の人間を主人公にして、それぞれの人生が交差していく様子を描く。だがここで描かれるつかの間の交差が、物語の中で明確な衝突や葛藤になっていないような気がするのだ。それはぶつかり合うことなく、間一髪でするりとすれ違ってしまう。彼らは共に過ごした時間の中で、何を求め、何を発見し、どう変わっていったのか? それがわからないから、映画の終盤でそれぞれの道を歩み始めた主人公たちを観ても、それが彼らにとって良いことなのか、それとも悪いことなのかすらわからない。たぶんこの映画は、登場人物たちの「変化前」と「変化後」を並べて描き、「変化の瞬間」は観客の想像に委ねる選択をした。でもこの映画に関して言えば、それが成功したとは言い難い。

11月28日公開予定 シネマート六本木
(10月31日より鳥取県・島根県先行ロードショー)
配給:エスピーオー、マジックアワー
2009年|1時間53分|日本|カラー|ビスタ|ステレオ
関連ホームページ:http://giniro-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:銀色の雨
サントラCD:銀色の雨
主題歌「透徹の空」収録CD:WE ALL(徳永英明)
原作収録:月のしずく(浅田次郎)
関連DVD:鈴井貴之監督
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