チャンスをつかめ!

2009/10/19 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Screen 4)
映画スターになることを夢見た青年の苦い成功物語。
第22回東京国際映画祭公式上映作品。by K. Hattori

Chancewo  映画スターになることを夢見てムンバイにやってきたソーナーは、親しくなったプロデューサーの「いつか主演映画を撮る」という言葉を信じて下積み生活を送っていた。そんな彼女の前に現れたのは、同じようにスターを夢見て俳優修業をしている青年ヴィクラム。売れない俳優同士が夢を語り、励まし合ううちに、いつしかふたりは愛し合うようになった。やがてヴィクラムに思いがけないチャンス。撮影中の新作映画から人気俳優が降板し、代役のオーディションでヴィクラムが大抜擢されたのだ。このことを自分のことのように喜ぶソーナーだったが、ヴィクラムはロケ遠征中に主演女優のニッキーと急接近していく……。

 インドの映画界を舞台にしたバックスクリーンもので、無名だが才能ある若者が主演スターの降板によって代役に抜擢され、新しいスターとして脚光を浴びるという『四十二番街』的な定番の筋立て。映画撮影中のエピソードには『雨に唄えば』のような部分もあり、主演俳優のワガママだの、プロデューサーの思惑だの、撮影現場での色恋沙汰だの、マスコミ対策だの、要するにこの手のジャンルの集大成なのだ。劇中にはインドの有名俳優たちがゲスト出演して(たぶんそういうことなんでしょうね、雰囲気からして)、映画の筋立てに不思議なリアリティを醸し出す。実在の俳優名を出しながら業界裏話的なことを語り、最後にそのご本人(シャールク・カーン)が颯爽と登場してくるのも面白い仕掛け。インド映画のファンなら大いに楽しめるだろうけど、そうでなくても映画業界の裏側などどこも似たようなもの。映画ファンには懐かしくて楽しい映画になっていると思う。

 映画は青年ヴィクラムの立身出世物語だが、映画を最後まで観るとそれが誤解で、これが恋人ソーナーをヒロインにした女性映画であることがわかる。映画の最後に「アレレ?」となって、映画の冒頭を思い出すのだ。そうだった。確かにこの映画は、ソーナーのエピソードから始まっていたっけ。映画業界でスターになることを夢見ながら挫折し、意地と根性で実力派の中堅女優として生き残っていくソーナーのたくましさこそが、むしろこの映画の中心なのではないだろうか。誰もがチャンスをつかんで一発で大成功という人生を夢見ているし、ショービジネスの世界には実際にそうした話も多い。でも現実にはどうだろう。ほとんどの俳優や女優たちは、長い下積みを重ねながら、いつか自分に脚光があたり、スターへの階段の第一歩に足をかけてみたいものだと夢見ている。

 この映画にはスターへの道が、いかに険しい茨の道であるかを描き出す。映画のプロデューサーでもあるベテラン女優が、自分の過去を娘に語るシーンは壮絶。「私は極貧の生活から抜け出すため5歳で芸能界に入り、16歳になると母親に命じられてプロデューサーと寝た。そんな苦労をしたことのないあなたに何がわかるか!」。昔も今も変わらない、芸能界の表と裏の顔だ。

(原題:Luck by Chance)

第22回東京国際映画祭 アジアの風/東南アジア・南アジア
配給:未定
2009年|2時間34分|インド|カラー
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=99
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:チャンスをつかめ!
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