ニューヨーク市の南西部にあるスタテンアイランドは、ニューヨークの中でも忘れられがちな島だ。地理的にはニュージャージーに近いので、ニューヨーク州の一部であることすら忘れられることがある。住民の半数弱がイタリア系という人口比率は、この地に中小マフィア組織が生じる原因となり、開拓時代以来手つかずの自然が多く残されたのどかな住宅街という顔の裏側では、血なまぐさい事件も数多く起きているらしい。この映画はそんなスタテンアイランドを舞台に、ひとりのマフィアと、彼と関わりを持つことになった2人の男を主人公にした物語だ。脚本家としてハリウッドで活躍するジェームズ・デモナコの監督デビュー作で、監督自身ももちろんスタテンアイランドの出身だという。
物語は3話オムニバスだが、3つの物語を通して1つの物語の3つの側面を描く群像劇になっている。時系列にすべてを順序立てて描くのではなく、時間を前後にずらしながら登場人物たちの運命を綴っていくスタイルは、タランティーノの『パルプ・フィクション』に似ているかもしれない。主人公はヴィンセント・ドノフリオ演じるギャングの首領パルミ・タルツォ、イーサン・ホーク演ずる清掃作業員のサリー・ヘヴァーソン、シーモア・カッセルが演じる耳の悪いデリカ店員ジャスパー・サビアーノ。まったく生活環境が異なる3人が、ある出来事を通してひとつの物語の中に合流していく。
野心家のギャングが部下に裏切られ、ギャングの金を盗んだ男が殺され、殺された男と親しかった男がギャングに復讐するという話自体はありきたりな気もするが、この映画の楽しさはそれぞれのキャラクターの肉付けにある。そのためにキャリアと実績のある、芸達者な3人が配役されているのだろう。しかし出色なのはシーモア・カッセル。彼はこの映画の中ではもっとも欲のない善良そうな人物であり、しかしこの映画の中ではもっとも血なまぐさい事柄に荷担している人物でもある。聾唖という設定から、彼は喜びも悲しみも楽しみも苦しみもすべて表情だけで語るわけだが、その表現の振幅と深さはさすが大ベテラン。印象的なのは彼が趣味の競馬予想に熱中するシーン。資料の山の中を車輪つきのイスで自由自在に移動しつつ、机の上に資料とノートを広げて予想を立てている姿の何と楽しそうなことか。苦節何十年でとうという大穴馬券を的中させたときの喜びっぷりも、映画を観ているこちらまで嬉しくなるような姿なのだ。
しかしながらこの映画、よくまとまった佳作というレベル以上に大きく抜きん出たものがないのも事実。3人の主役の中ではイーサン・ホークのキャスティングがやや中途半端で、ここにもう少しクセのある中堅俳優(例えばジョヴァンニ・リビジあたり)が入ると、インディーズ映画としてもピリリとしたスパイスが効いたと思う。この映画、アメリカ本国では劇場を素通りして12月のDVD発売が決まったようです。
(原題:Staten Island)
DVD:NYスタテンアイランド物語
DVD (Amazon.com):Staten Island 関連DVD:ジェームズ・デモナコ監督 関連DVD:ヴィンセント・ドノフリオ 関連DVD:イーサン・ホーク 関連DVD:シーモア・カッセル |