キャピタリズム

マネーは踊る

2009/10/28 よみうりホール
世界同時不況前からこの映画を作っていたM・ムーアの嗅覚に脱帽。
資本主義という怪物の輪郭が見えてくる。by K. Hattori

Capitalism  アメリカから「中流階級」が消えている。かつては一家のお父さんたちが工場や事務所で真面目にこつこつ働けば、その収入で妻と子供たちを養えるだけの収入が得られた。郊外の住宅地に新築のマイホームも持てたし、数年ごとに新車を買い換えることもできた。休日には家族揃ってレジャーを楽しむ余裕もあった。子供たちは大学に通うことができたし、病気になれば会社の保険で医療費がまかなえ、定年退職後は手厚い年金制度で現役時代と変わらない暮らしが維持できた。それは特別なことではない。社会の大多数を占める一般庶民は、真面目に働き続けさえすれば誰でもこうした暮らしを手に入れることができたのだ。

 だがこうした暮らしは、今や夢のまた夢。企業は国内労働者の人件費が高いことを嫌って、工場を国外に移転させていく。国内に留まる企業は労働者たちの賃金を、海外の発展途上国並みに低くする。これではいくら真面目に働いても、自分ひとりが食べていくのが精一杯。街には失業者が溢れ、保険や年金の制度は崩壊して生活苦が人々の肩にのしかかる。しかしその一方で、大企業のトップたちは庶民が一生かかっても手にすることができないような報酬を、たった1年で稼ぎ出す。アメリカからは「中流」が消えて、ごく一握りの「富裕層」と、それ以外の「貧困層」で構成されるいびつな国になってしまった。

 マイケル・ムーアの新作ドキュメンタリーは、そんなアメリカ社会の諸悪の根源を「資本主義」だと指摘する。市場に資金を投下することで投資分以上の利潤を生み出す資本主義は、世の中のありとあらゆるものを市場に流通させて金に換えてきた。目的は利潤を生むことであって、目先の金のためなら法の網の目をくぐって何でも行ってしまう。「法律違反でないなら金儲けのために何をしてもいい」という自由こそが、資本主義を支えている。法律が経済活動を抑制しているなら、政治家に圧力をかけて法律自体を変えさせてしまえばいい。国内で法的規制が厳しいのなら、規制のゆるい海外に活動拠点を移せばいい。かくして大企業は国際化し、製造業者は労働法規が甘く人件費の安い国々へ、排出物規制のゆるい海外へと工場を移転させる。金融業者は人間の身の回りにあるありとあらゆるものを金融商品化し、債券化し、組み合わせて、世界中に新しい金融商品として売りさばいた。

 この映画のメッセージは単純だ。「資本主義は悪である」というのがその主張。資本主義を批判するなんて、まるで共産主義者みたいに思えるかもしれないが、じつは冷戦時代に「共産主義は統制経済で全体主義で悪だ!」と主張し続けてきた西側陣営の人々(アメリカ人も日本人も含む)は、いつの間にか「資本主義は経済も人も自由で善だ!」と自ら信じ込んでしまったに過ぎない。マイケル・ムーアは資本主義に「NO!」を叩き付ける。しかしその先にどんな社会があるべきなのかは、これから考えていくべき事柄なのだろう。

(原題:Capitalism: A Love Story)

12月5日公開予定 TOHOシネマズ シャンテ
配給:ショウゲート 宣伝:樂舎、アンリミテッド
2009年|2時間7分|アメリカ|カラー|ヴィスタ1:1.85|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://capitalism.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キャピタリズム/マネーは踊る
関連DVD:マイケル・ムーア監督
関連書籍:資本主義関連
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