パラノーマル・アクティビティ

2010/01/20 トーショーホール
わずか150万円ほどで製作された低予算ホラー映画。
これからの映画の方向を示す問題作だ。by K. Hattori

Paranormal  ごくごく超低予算で作られた自主製作映画が、大手配給会社と契約して世界中に配給され、100億円を超える興行収入を稼ぎ出している。それが本作『パラノーマル・アクティビティ』だ。映画の世界には時々こういう夢物語のような出来事がある。かつてロバート・ロドリゲスは、友人や親戚から7千ドルをかき集めてアクション映画『エル・マリアッチ』を製作し、ハリウッドへの足がかりとした。ホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の製作費は3万ドルだったが、これも世界中でヒットした。今回の『パラノーマル・アクティビティ』は扱っているモチーフがホラーであることや、ビデオカメラを使った疑似ドキュメンタリー風の体裁になっていることなどから、『ブレア・ウィッチ〜』の手法を引き継いだ作品と言える。しかし製作予算はそれよりさらに安い1万5千ドルだ。

 この映画はこれからの映画が進む2つの方向のうち、ひとつの方向性を示している作品かもしれない。映画はこれから二極化していくように思うのだ。ひとつは公開中の映画『アバター』のように、大予算を投じてCGや3D技術などを使う大がかりなスペクタクル映画。もうひとつは本作のようにビデオ撮りで小さく仕上げる低予算映画。製作費150万円は極端だとしても、ビデオ撮影やパソコン編集によって製作費を徹底的に切り詰める動きは今後も続くだろう。この中間にある作品は、テレビの世界に吸収されてしまうかもしれない。かつては「映画スターになったらテレビドラマには原則出演しない(ただし大物ゲスト扱いは除外)」という不文律があったものだが、今やそんなことはまったくなくなっている。映像コンテンツの中心市場がDVDなどのソフト販売に移行している現在、作られるのが映画であってもテレビドラマであっても関係ないのだ。映画は大きな岐路に立っている。『パラノーマル・アクティビティ』や『アバター』という作品は、それを象徴する存在として将来映画史の中で語られる作品になるかもしれない。

 それにしても『パラノーマル・アクティビティ』の良くできていること。低予算をチープに見せない工夫が随所にあるし、序盤からラストに至るまで、サスペンスを途切れさせることなく維持させる技術は大したものだと思う。じつは今回この映画を一般試写で観ていたのだが、映画がいよいよ大詰めで終わるという段になると、客席から「これで終わり?」「これでいいの?」というつぶやき声とざわめきが生じ、映画が終わるとため息混じりの静かな笑い声が会場を包んだのだ。じつは僕も笑っていた。でもこれは「失望」の笑いではなかったと思う。人間は極度の緊張状態から開放されると、無意識のうちに笑うようにできているのだ。この笑いは、映画を観終えた満足感に裏打ちされた笑いだと思う。

 アメリカでは今年10月に続編の公開が決定。そこで「失望の笑い」が出ないことを願いたい。

(原題:Paranormal Activity)

1月30日公開 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:プレシディオ
2007年|1時間26分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.paranormal-activity.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:パラノーマル・アクティビティ
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