ケンタとジュンとカヨちゃんの国

2010/02/16 京橋テアトル試写室
自分を殺して生きる日常から逃げ出そうとした3人組。
カヨちゃん役の安藤サクラがいい。by K. Hattori

Kentatojyun  ビルの解体現場で働くケンタとジュンは、同じ養護施設で兄弟のように育った仲だ。仕事はきつい上に、ケンタは職場の先輩裕也に執拗にいじめられ、給料もピンハネされている。逃げ道のない残酷な日常。ある日ふたりは夜の街にナンパにでかけ、カヨちゃんというブスな女の子を引っかける。ジュンはそのまま彼女の家に転がり込んでしまった。その後、ケンタは長年思い詰めていたある計画を実行する決意を固める。職場の事務所をメチャメチャにし、裕也の愛車をボコボコに壊した上、職場の車を盗んで逃げるのだ。でも行き先は? とりあえずは網走。そこまで行って、ケンタは刑務所に入っている兄に会いたいと思う。同じように逃げ道のない残酷な日常を生きた後、その日常から軽々とジャンプして逃げた兄に話を聞いてみたいと思う。ケンタの計画にジュンとカヨちゃんも同行。計画通りに事務所をぶっ壊した後、3人は軽トラに乗って北を目指す。

 『ゲルマニウムの夜』の大森立嗣監督が、自ら脚本も手掛けた第2作目。これは暗い映画だ。鬱屈した日常から脱出しようと旅に出た3人が、結局は自分たちをがんじがらめにしている日常から逃げ切れないまま、絶望的な旅を続けようとする。物語の大きな枠組みとして、この映画は例えば『テルマ&ルイーズ』にも似ているかもしれない。ジャンルとしてはロードムービーなのだが、これはA地点からB地点に向けての旅を描いた話ではない。これはA地点から逃げ出して、非A地点を探し求めてさまよう物語なのだ。最後の最後に追い詰められた主人公たちが、どん詰まりのさらなる向こう側へと突き抜けていこうとする姿も共通している。どちらも暗い話であることには違いない。でも『テルマ&ルイーズ』はその暗さを、明るい風景と主人公たちのキャラクターでカバーし、暗さをあまり感じさせない映画に仕上げていた。でもこの『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』は、話のままに普通に暗いのだ。いやむしろ、これは話以上に暗いタッチを狙っている。

 僕自身はこの映画にまったくノレなかったのだが、それは「自分たちはこの程度」「このつまらない小さな世界で生きるしかない」という枠を越えようとした主人公たちが、結局はそれを乗り越えられないまま、より狭い場所に自分を追い込んでいく姿にゲンナリさせられてしまったからかもしれない。どこまで逃げても、自分を縛っていた過去は追い掛けてくる。主人公たちは最後にそれに捕まってしまうのだ。しかし3人組の紅一点カヨちゃんだけは、そこから何とか逃れ出たようにも見える。最後の最後に、彼女は自分で自分の道を歩き始める。男たちにできなかったことが、なぜ彼女にはできたのか。それは彼女が持つ「女」という属性によるものかもしれないが、それより彼女だけが最後にたったひとりぼっちの個人として行動することを強いられていたからかもしれない。人間最後は、ひとりなのだ。

6月12日公開予定 新宿ピカデリー、渋谷ユーロスペース、池袋テアトルダイヤほかにて全国ロードショー
配給:リトルモア 宣伝:ヨアケ、ムヴィオラ、バロン、フラッグ
2010年|2時間11分|日本|カラー|アメリカンビスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.kjk-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ケンタとジュンとカヨちゃんの国
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