結び目

2010/04/21 映画美学校試写室
男と女が再会して十数年前の狂おしい感情が蘇る。
ヒロインを演じた赤澤ムックにしびれる。by K. Hattori

Musubime  地方都市の住宅街の中にある小さなクリーニング店。ある日その店に、男物のスーツを持ち込んだ若い主婦がやって来る。いつもの通り、伝票に必要事項を記入する客と店の主人。だがふたりはかつて中学校の教師と教え子として、越えてはならない一線を越えた関係を結んだ間柄だった。14年前に起きたその事件の噂は、小さな町にあっという間に広まり、男は学校を辞め、少女はいずこともなく消えた。だがそれから14年。かつて少女だった女は偶然、かつて関係のあった教師が自分と同じ町に住んでいることを知る。クリーニング店の店先での再会。何事もないかのような応対と別れ。だがふたりとも知っている。この再会が、決して後戻りできない新しい関係に踏み出してゆく第一歩になることを……。

 かつて恋愛関係にあった男女が無理矢理別れさせられるが、十数年後にそれぞれ結婚して家庭を持っているにもかかわらず再会し、再び関係が始まるという話。この物語自体はありきたりな感じがするのだが、映画の中には終始ピリピリとした緊張感が漂い、それが時には殺気めいたものにまで高められていく。映画のクライマックスにあるのは明白な「殺意」だ。男女関係のもつれが周囲の人々を巻き込んで、相手を殺すか、自分も死ぬかというギリギリの状況にまで追い込んでいく。物語はありきたりでも、この映画は決してありきたりな映画ではない。むしろとてつもない映画だ。人間の心の葛藤を、これほど丁寧に、リアルに描いた映画はそうそうない。真に劇的なものとは人間を取り巻く「状況」の中で生まれるのではなく、人の「心の中」に生まれている。その緊張感、その痛み、苦しさなどに肉薄してゆくこの映画の、何という生々しさ。

 世の中には男女関係から派生した殺人事件や暴力沙汰があふれている。それらは他人の目から見れば、どれもありふれてつまらない男女間の物語に過ぎない。だがありふれてつまらないことで、人と人が殺し合うまでに至るだろうか? 総じてありふれてつまらないことほど、当事者にとってはのっぴきならない話なのかもしれない。この映画を観ていると、観ているこちらまでがそののっぴきならない事態に巻き込まれていくのだ。

 ヒロインを演じた赤澤ムックがすごい。この映画はあまり台詞が多くないのだが、彼女の表現力のパワーはすごかった。特に目の表情。昔の恋人の家に上がり込んで、ソファに座ったまま彼の顔を見上げるシーンなどは鳥肌が立ちそう。喫茶店の外で殴り合いをしたあと、自転車で盛大にこけるシーンもすごかった。彼女の表情を引き出した監督と、その表情を撮影したカメラマンもすごい。この映画はデジタル撮影なのだが、普通のデジカムではなくデジタル一眼レフカメラ(ニコンD90)の動画撮影機能を使って随所に印象的なシャロウフォーカスを用いている。人間の表情から目だけにピントを合わせて前後をぼかすなどの表現が可能なのだ。これはデジイチで撮った日本初の長編劇映画ではないだろうか。

6月下旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アムモ
2009年|1時間31分|日本|カラー|HD
関連ホームページ:http://www.amumo.jp/
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