殺人犯

MURDERER

2010/04/27 京橋テアトル試写室
人間の背中に電気ドリルで穴を空ける連続猟奇殺人。
捜査の担当刑事がじつは犯人? by K. Hattori

Satsujinhan  香港警察のレン刑事は、連続殺人事件の捜査中何者かに襲われて意識を失った。病院のベッドで意識を取り戻した彼は、相棒のタイ刑事が同じ現場で全身血まみれの状態で発見され、意識不明の重体になっていることを知る。やったのは捜査中の連続殺人犯にまず間違いないだろう。だが犯人はなぜタイを残忍に傷つけ殺そうとした一方、レンをほとんど無傷のままにしたのだろうか。他の刑事たちは犯人を目撃しているに違いないレンから当時の状況を聞き出そうとするが、レンの頭の中からはその出来事前後の記憶がすっぽりと抜け落ちている。医者が言うには一時的な記憶障害だ。レンは犯人をむざむざ取り逃がした刑事として、仲間たちから浮き上がった存在になってしまう。親友クァイ刑事と一緒に捜査を再開したレンだったが、そこで彼は恐ろしい事実に気づいてしまう。犯人がタイを襲うのに使った電気ドリルは、レンの自宅から持ち出されていたのだ。犯人はレンのすぐ近くにいる。いやひょっとしたら、レン自身が犯人なのかもしれない。息子の人形に付けられた無数のドリル傷。自宅に残された血痕。ドリルの穴。そしてこれまでの被害者たちの共通点。次々に浮かび上がってくる状況証拠は、レン自身が事件の容疑者であることを示していた……。

 アーロン・クォック主演のサイコ・サスペンス映画。連続猟奇殺人の犯人を追う刑事が、犯人の巡らした用意周到な罠にはまって身動き取れなくなっていくというのが映画前半の展開。警察署内の人間関係なども含めて、この前半は見応えのある刑事ドラマになっている。類型的なエピソードやピタリと決まらず流れてしまっているシーンなどもあるが、鳥肌の立つような凄惨でグロテスクな残虐描写をスパイスにしながら、犯罪ミステリーとしてとしてかなりレベルの高いものになっているのだ。おそらくこの路線のまま映画の最後まで向かっていけば、この映画はよくできた刑事ドラマとしてそこそこの評価を受けていただろう。だがこの映画は、そうした「そこそこの評価」など眼中にない問い頃まで突っ走っていく。これは暴走か? それとも計算したものなのか?

 映画はぎりぎりまで主人公を追い込んだあげく、不意打ちのように「意外な犯人」を簡単に明らかにしてしまう。主人公が犯人にたどり着く前に、犯人の側が主人公に自らの正体を明かすのだ。しかしこの犯人は、ミステリー映画としてはほとんど「反則」だ。もしこの映画が犯人捜しのミステリー映画だとしたら、こんな犯人を持ち出してきた時点で「観客を馬鹿にするにもほどがある!」と言われておしまいだっただろう。だがここから映画は、これまで誰も観たことがないような世界に突入していく。映画を観ていて、これほど奇妙な思いを味わわされることは滅多にない。一歩間違えれば滑稽に見えてしまいかねない映画後半を支える、アーロン・クォックの熱演には頭が下がる。すごいよ!

(原題:殺人犯 MURDERER)

6月上旬公開予定 シネマート六本木
配給:ツイン 宣伝:フリーマン・オフィス
2009年|2時間1分|香港(中国)|カラー|ビスタ|ドルビーステレオ(デジタル上映)
関連ホームページ:http://www.murderer.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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