悪徳に満ちた人類に対して神は深く絶望し、人間たちを地上から一掃するため天使の軍団(レギオン)を送り込もうとする。だが天使軍団の総大将ミカエルは、そんな神の命令に反逆。ただひとり軍団から離れると、人類の救世主となる赤ん坊を救うため地上に降りて天使軍団と戦う。武器は車のトランクに詰め込んだ拳銃や自動小銃など。人里離れたドライブインで、全人類の存亡をかけた戦いが始まる。
話のスケールは大きいのだが、やっていることがチープ。物語の舞台は周囲360度四方を地平線が取り囲む砂漠の中のドライブインで、登場人物はポール・ベタニー扮する大天使ミカエル、ドライブインの亭主デニス・クエイド、その息子のルーカス・ブラック、コックのチャールズ・S・ダットン、息子の恋人エイドリアン・パリッキー、その他たまたま偶然このドライブインに立ち寄っていた数人の客たちのみ。状況を限定して登場人物も限定だから、これだけで映画は低予算になる。天使同士の戦いなどは『デビルマン』よりは多少ましなCGで済ませ、あとは暗闇から現れるゾンビみたいなエキストラがうじゃうじゃ。この映画は天使だの黙示録だのをダシにして、新手のゾンビ映画を作っているだけなのだ。天使が人間に憑依してモンスターになるというアイデアは面白いが、これは悪魔の憑依を天使に置き換えただけ。悪魔ももともと天使のなれの果てだそうだから、悪魔が人間に憑依できるのなら天使も憑依できるのだろう。これは一種の盲点だったかもしれない。でも憑依してしまった後は、『エクソシスト』などの悪魔憑き映画やゾンビものと変わらないのが残念。「天使憑き」に何かオリジナルのアイデアがあると面白かったんだけどな。
あらゆる映画はさまざまな制約の中で作られているものだから、この映画についても予算や配役や脚本などについて、あまりあれこれ注文を付けても意味のないことだろう。でも「天使憑きのオリジナリティ」も含めて、あともう少し知恵を出せばずっと面白くなりそうなのに……と残念に思わされる点が多い。天使のキャスティングにしても、ミカエル役のポール・ベタニーはともかく、ガブリエル役にケヴィン・デュランドというのはいかがなものか。ミカエルは剣を持って悪魔と戦う天使軍団の総大将だと昔から決まっているのだが、ガブリエルが有名なのは聖母マリアに対する受胎告知のエピソードだ。レオナルド・ダ・ヴィンチにこの場面を描いた有名な絵があるが、そこに登場するガブリエルは美しい女性として描かれる。キリスト教絵画では伝統的に、ミカエルを男性として描き、ガブリエルを女性として描くことが多い。この映画でもその伝統を踏襲すれば、二大天使の絆や葛藤を男女の関係として描くことができたはずだし、人間を滅ぼそうとするガブリエルも戦うスーパーヒロインとして魅力的に描けたはずなのだが……。
(原題:Legion)