グッドモーニング・プレジデント

2010/05/17 シネマート銀座試写室
人間味豊かな大統領3人を主人公にしたオムニバス風のコメディ。
政治映画ではなくホームドラマ風。by K. Hattori

Gmp  韓国の大統領を主人公にした、オムニバス風のコメディ映画。3代3人の大統領を主人公にした3つの物語が、ゆるやかに連結している形式で、ひとつひとつのエピソードに直接的なつながりはない。3つのエピソードに共通して大統領官邸の料理人が登場し、最終的には全体がこの料理人の回顧録であるという体裁にはなっているが、これを3エピソードを貫き通す串に見立てるのはちょっと厳しい。しかしながら「大統領も普通の人間です」という映画のテーマを言葉で語らせつつ、映画をストンと観客の腑に落ちるところに着地させるアイデアとしては悪くない。このエンディングがあるとなしとでは、映画の印象はだいぶ違ったものになっただろう。

 映画の冒頭に登場するのは、退任まであと半年ほど残したキム・ジョンホ大統領。彼は宝くじのPRイベントで自らくじを購入し、詰めかけたマスコミに向けて「もし私が当選したら、全額を福祉団体に寄付します」とリップサービス。ところがそのくじが本当に1等に当選してしまう……という話。賞金額は244億ウォン(為替レートにもよるが約20億円ぐらい)。若い頃から貧しくて苦労した大統領にとって、これは夢のような大金。しかしこれを自分の懐に入れてしまえば、国民との約束を破ったことになる。大統領の気持ちは千々に乱れる。

 2番目のエピソードに登場するのは、若き野党党首から国家元首になったチャ・ジウク大統領。日本の自衛隊に挑発されて北朝鮮が軍事行動を起こし、米国まで巻き込んで韓国近辺は戦争の危機。キューバのミサイル危機もかくやという国際的緊張状態の中で、若い大統領は米国と直談判し、日本大使を呼びつけて叱責し、北朝鮮代表に撤退を懇願する。そんな中、大統領は病気の父親を持つ若い男の切実な悩み事を突きつけられる。

 3番目のエピソードは、韓国で初の女性大統領が誕生し、韓国史上最初のファースト・ハズバンドになった夫との間で離婚騒動になるという話。公人である大統領にプライベートもプライバシーもないのと同じく、大統領の夫にもプライベートやプライバシーが存在しない。韓国一忙しい妻を持つ夫にとってささやかな夢は、妻が政界を引退した後、夫婦水入らずでのんびりと田舎暮らしをすることだった。ところがこの夢が、韓国政界を揺るがす大スキャンダルに発展してしまう。

 どのエピソードも面白いのだが、政治ドラマとしてはまったく物足りない。そもそもこの映画には政権交代にまつわる与野党間の駆け引きや、与党内部での権力抗争がまったく描かれない。映画の作り手には、最初から「政治」を描くつもりなどないのだ。唯一政治らしい話が出てきたのは第2エピソードの北朝鮮をめぐる緊張状態だが、このエピソード全体を観れば、重点はそこにはないことが明らかだ。結局この映画で描かれているのは大統領の人格・人徳であって、政治手腕ではない。修身斉家治国平天下。韓国は儒教の国だなぁ。

(英題:Good Morning President)

7月24日公開予定 シネマート新宿、シネマート心斎橋
配給:エスピーオー 宣伝:ユナイテッド エンタテインメント
2009年|2時間9分|韓国|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.president2009.co.kr/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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